一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.13 December (1) 研究者は英語を話そう

林 茂生 (理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)

 先日韓国で開催された研究集会に参加する機会を得た。空港での丁寧な出迎えに始まりカラオケ,焼き肉,観光ツアーと続く熱い歓迎ぶりに圧倒される思いであった。2日間のミーティングは日本,韓国,台湾と米国の研究者が招待されたがそれに混じって講演した地元韓国の大学院生たちの真摯な発表ぶりが強く印象に残った。

 この集会の使用言語はもちろん英語である。この集会は韓国の分子生物学会年会のサテライトミーティングとして開かれたがメインの年会も発表は英語で,配られたアブストラクト集も時折混じるハングル文字によって韓国の学会であることが判別できる程度であった。主催者が英語を公式言語にしてくれたおかげで私はこのミーティングを大いに楽しむことができた。

 韓国の学生は特に英語を得意とする訳ではないと思う。個人的に話してみると学部学生は英語に苦労しているし,会話をはじめる際に感じる敷居の高さは日本人に共通するシャイな性格によるものだと思う。しかし大学院生レベルでは会話には不自由せず発表もなかなかの出来であった。これは彼らの努力の賜物であろう。想像するに彼らは研究者を目指す心構えができた時点で英語を基本的な言語として用いる訓練をおこなっているのではないだろうか。

 私がアメリカに留学していた13年前のことである。多忙なボスが「代わりに行ってこい」と送り出してくれた国際ミーティングが私の英語講演デビューであった。練習をするためにスライドプロジェククーまで自費で買い込み自宅で特訓を重ねて発表に望んだ。発表自体は冷や汗ものだったが先日話す機会のあった同業者に「あのときのおまえの話を覚えているよ」といわれて意味だけは通じたのだと知りほっとした思いであった。

 日本人が英語で発表するのは勇気が要るものである。しかし国際語である英語でなければ日本人以外には意味が通じない。そしていくら良い仕事でもその真価が世界の同業者に理解されなければその成果にふさわしいクレジットが得られない。それ故私たち日本人も英語のプレゼンテーション技術をぜひとも磨かなければならないのである。しかし日本の学生にとって英語でのプレゼンテーションの機会は余りにも少ない。

 そこで学会の講演は英語を基本とし,ポスター発表も英語とすることを提案したい。日本でおこなわれる,日本人主体の学会で英語を発表用言語とするとは何事かと怒られる向きもあろう。しかしそもそもコスモポリタンな営みであるサイエンスの分野で自国の言語にこだわることは生産的ではなく国際的な共通言語となれば英語以外に選択の余地がないのは明白である。5年程度をかけて徐々に使用言語の英語化を進めていけばこれから研究者の道に入る大学院生が学位をとる頃には英語が当たり前,という認識を定着させることが出来,海外からの学会参加者も増やすことが出来るだろう。それはひいては日本のサイエンスの実力に見合ったvisibilityとstatusを得るための早道だと信ずる。


(2002-12-01)

日本細胞生物学会賛助会員