一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.28 June - August (1) 「若手」からの提言

入江和樹 (東北大学 大学院 生命科学研究科)

この度は巻頭言を書く機会を与えてくださりありがとうございます。これまでの巻頭言の執筆者は、教授を始めとする大きな成果を挙げられた方々であり、私のような若輩者が執筆したケースはありません。非常に恐れ多く僭越ではありますが、第3代若手の会事務局長を務めた経験をもとに「細胞生物学会の若手支援対策」に関して思うことを記します。

「若手の会」は2014年に当時大学院生であった市川尚文さん(京都大学 研究員)、小笠原裕太さん(名古屋大学 助教)らが発起した団体で「学生だけでも学会を盛り上げよう」という考えのもと設立されました。若手の会は、学会の前日に「大学院生をはじめとした若手研究者」を対象に交流会を開催しています。私は、今年の大会の前日6月12日に開催しました、細胞生物若手交流会(前夜祭のようなもの)を仕切らせていただきました。参加してくださった方々、ご助力くださった方々に深く御礼申し上げます。

1990年に月田承一郎先生が執筆された巻頭言に次のような構想が記されております。
「何らかの方法で若者が発言しやすいような環境づくり、すなわち若者が発言しやすいようにある程度のバイアスのかかった環境を学会のなかにつくる必要があると考える。従来のいわゆる『若手の会』といったものでなく、少し異なった若手の会を組織し、毎年の年会で、シンポジウムの一つを企画担当するような試みはどうだろう?その組織で意見をまとめて運営委員会に委員の枠を確保するのはどうだろう?」
今年の学会では「若手シンポジウム」を行うことができ、若手の会メンバーは学会の「将来計画委員」に名を連ねさせていただいています。学会を挙げて若手の会に協力くださっていることに感謝しています。学会が若手に対して歩み寄っている中で、若手の会はその期待にまだ応えることができていないと感じています。今の若手の会で提供しているのは、「(研究)交流」ですが、「研究発表・議論」の部分が少し弱いように感じています。(どうやら発生生物学会の学生と比べて、細胞生物学会の学生は「真面目」すぎるのだそうです)。次の大会は発生生物学会と合同ですので、真面目さを打ち破るような活発な交流会を第4代事務局長 中野沙緒里さん(東京大学)をはじめとする幹事の方々に期待します。

細胞生物学会の若手支援としてあげられているのは「学生の大会参加費無料」「若手優秀発表賞」「若手の会への支援」です。細胞生物学会は「若手」に対して非常に期待を持っている学会です。このような学会は他ではあまりないのではないでしょうか。こうした期待を感じる中で、それでもなおお願いしたいことは、参加費無料化のような「院生・ポスドク」を対象とした広い支援がもっと行って欲しいということです。

過去の若手優秀発表賞受賞者を見るとそうそうたる面々が並んでおり、多くの方が賞をとって数年後には重要なポストについていらっしゃいます。このようにこの賞は、「PIへの登竜門」のような位置付けにあり非常に意義深い賞です。一方で、大学院生の受賞者もいるものの、少ないような印象を受けます。「院生・ポスドク」は業績が少ないため、賞のような箔をつけるものがキャリアアップに必要です。対象を院生・ポスドクにまで広げたもの、彼らを対象にしたものが別にあると良いのではないでしょうか。

今回の若手の会では、学会のサポートにより学生の懇親会費無償化を行うことができました。その甲斐もあって、多くの人が参加してくださいました。しかし、この「若手の会への支援」は「参加者限定」な恩恵になっています(交流会の学生参加者の割合は学会発表者の2割程度)。委員会の委員に関しては、若手の会の幹事になった人が、教授からの指名を受けて「トップダウン式」に選出されています。こういった「限定」の支援ではなく、平等に支援していただきたいと思っております。例えば、公募制の委員などはあっても良いのではないでしょうか。学会をよくしたいという意欲のある人が委員になれるようにした方が、建設的かつフェアです。特に将来アカデミアに進みたいと思っている人であれば、学会の運営に直接携われるのは良い経験になるはずです。

「若手の会への支援」という点に関して、もう一点記します。残念ながら、若手の会の参加者を見ると、リピーターや開催地の学生が多くなっており、新規開拓には至っていないように感じます。参加しなかった方々にはどうしても心理的なハードル(「参加者はアカデミア志望ではないか」「ちゃんとした発表をしなくてはいけないのではないか」)があるのだと思います。活発な議論は参加者の数に比例して生まれるため、そうしたハードルは取り除かなくてはなりません。そこで皆様にお願いです。学生の皆さんは「学会で聞きたい発表の下調べ」「発表や質疑応答の練習」という感覚で来ていただければと思います。先生方は上記のメリットと「横のつながりの重要性」を伝えて、学生に勧めてください。次の学会大会は東京で行われます。(東京は何度も行く機会がありますから観光ではなくて)、ぜひ若手交流会にお越しください。


(2017-06-07)

日本細胞生物学会賛助会員

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