一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

2016-10-18

岡本浩二 (大阪大学大学院生命機能研究科)

大隅良典先生が2016年ノーベル医学・生理学賞をご受賞されたこと、門下生の一人としてこの上なく嬉しく思っております。先生、おめでとうございます!今回、ご受賞のお祝いを寄稿させていただくことになり、私自身の大隅研での日々を回想しながら、先生からのメッセージを紹介したいと思います。

私が大隅研で過ごしたのは、2006年12月~2009年3月(基生研)と、2009年4月~2010年3月(東工大)の3年4ヶ月です。日本を飛び出て10年半、好きな基礎研究を楽しんだ一方、研究を生業としてゆく方向性が揺らいでいた頃でした。40歳を過ぎ模索していた私を最年長の研究員として受け入れてくださっただけでなく、ラボの中心的課題ではなかったミトコンドリア特異的オートファジー(マイトファジー)の研究に専念させていただきました。さらに、マイトファジー不全変異体をスクリーニングする際、妻の徳子をメンバーに加えてくださり、彼女の学位取得後には研究員として働く機会も与えていただきました。時を前後し、大隅研には一緒に仕事する夫婦が数多く在籍しており、何事にも大らかで寛容な先生のお人柄ゆえのことだと感じています。幸運なことに、私と徳子が大隅研で過ごした時期はマイトファジーの分子機構が初めて明らかになる過程そのものであり、私たちのグループもその道のりに貢献することができたと思っています。2010年4月、阪大で研究室を立ち上げるご縁に恵まれてとても幸せでしたが、一方で大隅先生と時空間を共有しながらの研究生活が終わることは名残惜しくもありました。

大隅先生からの助言や激励の言葉は、今でも私の心を温かく満たしてくれています。ここでは、数多くの中から一つを述べさせていただきます。先生は、飲みの席でほろ酔い気分になると、「自分の研究のファン(サポーター)をつくりなさい」とおっしゃることがしばしばありました。このメッセージを私なりに解釈すると、「世界のどこかで自分の研究を楽しみにしている人がいる」、「自分の研究は他者による評価があって初めて認知される」、「自分の研究を通じて学友を得るとともに同業者仲間の輪を作る」ということかなと考えています。さらには、自分も他者の研究のファンとなり、互いに共鳴しながら高め合えれば、素晴らしいのではないでしょうか。

今回のご受賞を契機に、大隅先生が築かれたオートファジー研究の意義が広く一般に知られるだけでなく、先生ご自身が機会あるごとに発せられてきた「科学の本質」や「基礎研究の在り方」についての議論が社会全体で活発化してゆくことを期待しています。そのことを通じて、科学が空洞化することなく、真に日本の文化になることを願ってやみません。私自身も大隅先生のご意志を共有し、できる限りの貢献をしてゆきたいと考えています。

結びに、大隅良典先生の益々のご活躍とご清栄をお祈り申し上げます。


(2016-10-18)

日本細胞生物学会賛助会員

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