一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

細胞生物学用語集【ま行】

【ま】

膜ナノチューブ
【membrane nanotubes】
大野 博司
理化学研究所・横浜研究所 免疫アレルギー科学総合研究センター(RCAI)
お問合せ
樹状細胞、T細胞などの免疫系細胞に見られる細胞構造。異なる二つ以上の細胞をつなぐチューブ構造であり、細胞膜から形成される。直径が数十〜数百ナノメートルの比較的細い物から、数マイクロメートルの太い構造が確認されている。細胞内カルシウムシグナルの細胞間伝播に働く、とともに、異常プリオン、HIVウィルスそれ自身もしくはウィルス由来の病原性蛋白質の細胞間伝播に関わると考えられている。他にtonneling nanotubes (TNTs), Cytoemes とも記載される。図はRaw264.7細胞の細胞膜を染色した図。細胞同士をつなぐ細長いチューブ構造が確認できる。
参考文献
Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 9 (6): 431?6., Histochem. Cell Biol. 129 (5): 539?50.

膜結合型細胞増殖因子
【Membrane-anchored growth factors】
目加田 英輔
大阪大学微生物病研究所細胞機能分野
EGFファミリーを含むある種の増殖因子やサイトカインは膜結合型として合成される。EGFファミリー以外ではTNF (tumor necrosis factor)-a, c-kit ligand/stem cell factor, CSF (colony stimulationg factor)-1, IL (interleukin)-1, ephrin-B等が膜型として合成されることが知られている。これらの中には膜型でないと正常な機能を示さない因子もある。例えばc-kit ligandでは分泌型は合成できるが膜型を合成できない変異マウスは発生異常を呈することや、ephrin-Bの場合では分泌型に変異させるとその活性が失われること等が報告されている。反対に、ショウジョウバエのSpitz(ヒトTGF-aのホモログ)では膜型では不活性で分泌型が活性型であると考えられている。さらにTNF-aでは膜型と分泌型で異なる受容体に結合するという報告もあり、その作用様式は多様である。
参考文献
Cytokine Growth Factor Rev. 11: 335-344. 2000

膜交通と小胞輸送
【membrane traffic】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
真核細胞の細胞小器官(organelles)のうち単膜系のもの,つまり,小胞体(核膜を含む),ゴルジ体,リソソーム/液胞,分泌小胞/分泌顆粒,エンドソームなどは,もともと細胞膜が細胞質内に陥入したことにより生じた細胞内膜系(endomembrane system)に属し,細胞膜を含めた複雑な膜交通(membrane traffic)のネットワークを形成している。細胞小器官の間のタンパク質輸送は,小胞(vesicles)が介在することが多いので小胞輸送(vesicular transport)とも呼ばれるが,細胞小器官同士の直接の接触や細管(tubules)の連絡でも輸送は可能であり,それらをひっくるめて膜交通(membrane traffic)と総称することが多くなった。業界では親しみを込めて「メントラ」と略称される。なお,膜輸送という言葉は,膜透過を意味する場合に使われることが多いので,混乱を避ける意味でも区別して使いたい。

【み】

ミオシンII阻害剤 (blebbistatin, Y27632, ML7など)
【Myosin inhibitors (blebbistatin, Y27632, ML7)】
米村 重信
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター (CDB)
お問合せ
Blebbistatinには鏡像異性体の(-)体と(+)体とがあり、(-)体が効果を持ち、(+)体には効果がない。(-)体は横紋筋のミオシンII、非筋ミオシンIIのATPase活性をIC=0.5-5μM程度の強さで阻害する。培養細胞には(-)体なら5-50μMの濃度を使用することが多い。ミオシン-ADP-Pi複合体に結合し、リン酸の放出を抑制することでATPaseのサイクルを阻害する。平滑筋のミオシンIIやショウジョウバエの非筋ミオシンIIには効果がない。ミオシンIIは脱リン酸化を受けるわけではなく、会合したまま存在する。細胞性粘菌のミオシンIIにも効果を持つが、ミオシンIIを発現しない細胞性粘菌の一部の活動を抑制することから、副作用がないわけではないことがわかっている。GFPを励起する波長によりblebbistatinが細胞毒性を示すため、ライブイメージングのためには、より長波長で励起される蛍光分子を用いることが必要である。
 BDM(2,3-butanedione monoxime)も一般的なミオシンIIの阻害剤として使用されるが、骨格筋ミオシンIIには作用があるものの、非筋ミオシンIIに対しては阻害効果がないこと、むしろアクチン重合への阻害が見られることがわかっている。
  Y27632はROCK/Rho-kinaseをATPと拮抗的に阻害する。細胞においては10-30μM程度の濃度でよく使用される。ROCK/Rho-kinase活性の阻害により基質の一つであるミオシン調節軽鎖(MRLC)のリン酸化は抑制され、また別の基質であるMYPT1のリン酸化が抑制されることによりMYPT1をサブユニットとするミオシンフォスファターゼが活性化し、MRLCの脱リン酸化が亢進する。これによりミオシンIIのATPase活性の低下、脱重合が起こるため、細胞内のミオシンIIの機能は低下する。ストレスファイバーの崩壊など、アクチン細胞骨格の大きな変化が見られる。ROCK/Rho-kinaseの基質は他にもあるものの、多くの細胞において上記の変化は目立つ。
 ML7とML9はそれぞれミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)をATPと拮抗的に阻害する。しかしその細胞への使用には大いに注意が必要である。MLCKによるリン酸化部位を擬似リン酸化型に変えた変異MRLCを発現する細胞では、Y27632で処理をしてもその変異MRLCは影響を受けずに機能し続けるのでストレスファイバーに変化はないが、ML7で処理をするとストレスファイバーは崩壊する。これはML7がMRLCのリン酸化を介さずにアクチン細胞骨格に大きな作用をするということを示している。これが他の既知や未知のキナーゼの阻害によるものかはわかっていない。実際にMLCKのノックアウトマウスでもほぼ正常な胚発生を行うことから、MLCKが重要な働きをする細胞はかなり限られていると考えられる。
参考文献

ミオシンの局在制御機構と細胞運動
【Regulation of myosin II for subcellular localization and cell motility】
祐村 恵彦
山口大学大学院医学系研究科
ここでは,タイプIIのミオシンIIについてのみ解説する。このミオシンは骨格筋ミオシンに似ており,双極性の繊維を形成することができる。ミオシンIIは分裂細胞では,細胞質分裂時に収縮環に,移動細胞では細胞の尾部に局在する。ミオシンIIが局在する場所でアクチン繊維との相互作用により,力を発生し細胞質分裂,移動運動,さらに形態形成などに寄与していると考えられる。ミオシンIIの遺伝子を欠損させる実験が細胞性粘菌で初めて行なわれ,この欠損細胞では,収縮環依存の細胞質分裂ができないため,多核化することが示された。これ以前に,馬淵らによる,ミオシンに対する抗体を顕微注射すると細胞質分裂が阻害されるという歴史的実験もミオシンIIが細胞内で局在してその場所で力を出すことを示している。ミオシンII欠損細胞でも移動運動は可能であるが,尾部の収縮ができず,仮足でのアクチンの重合による伸長のみにより移動運動することになり速度も遅くなる。ミオシン繊維の形成はミオシンIIの細胞内局在には必須で,繊維化できない改変ミオシンでは局在が見られなくなる。ミオシンIIの繊維の制御と酵素の活性化の制御はリン酸化に依存するが,その修飾は生物によって軽鎖もしくは重鎖,もしくは両方が関与する。ミオシンIIが収縮環や細胞尾部にどのように局在するかは,まだよく分かってない。リン酸化の酵素活性が細胞内で偏っておれば,繊維を局所に集合させることができるという考え(リン酸化勾配説),アクチンを含めた細胞膜の流れがミオシンIIを分裂面や細胞尾部に運ぶ(表層流説),anillinのようなミオシンIIを分裂面にアンカーするタンパク質がある(結合タンパク質説)などが議論されている。最近,アクチン繊維が張力センサーとして機能していて,繊維が伸ばされる時にミオシンIIがより結合しやすくなるため,張力を発生し始めた部位にミオシンIIが集合するのではないかという斬新なアイデアが提唱されている。
参考文献
Mabuchi, I and M. Okuno (1977). The effect of myosin antibody on the division of starfish blastomeres. J Cell Biol. 74:251-263.
PubMed
Uyeda T. Q. P. et al. (2011). Stretching actin filaments within cells enhances their affinity for the myosin II motor domain. PLoS One, e26200.
PubMed
Yumura, S. et al. (2008). Multiple mechanisms for accumulation of myosin II filaments at the equator during cytokinesis. Traffic, 9:2089-2099.
PubMed

【め】

メカノトランスダクション
【mechanotransduction】
米村 重信
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター (CDB)
お問合せ
機械的刺激(情報)を生化学的シグナルに変換すること。関連する言葉のメカノセンシング(mechanosensing)は機械的刺激を知覚することで、分子レベルでは、機械的刺激によって分子が構造変化を起こすことに対応する。メカノレスポンス(mechanoresponse)は機械的刺激から生体の反応(メカノトランスダクション以降に起こる、細胞骨格の変化や遺伝子発現など)が起こること。メカノトランスダクションは構造変化を起こした分子が、生化学的シグナルを引き起こす段階である。この場合の生化学的シグナルには、チャンネルの開閉、酵素活性の制御、タンパク質との結合などが含まれる。
参考文献

日本細胞生物学会賛助会員

バナー広告