「小胞体」の名称の変更に関するパブリックコメントの募集

長年、「endoplasmic reticulum(ER)」の訳語として「小胞体」という名称が使用されてきましたが、実際の細胞内の形態と大きく異なるため、教育や研究の場で誤解が生じています。そこで、日本細胞生物学会*、日本生化学会、日本解剖学会、日本分子生物学会、日本遺伝学会(賛同順、*は提案学会)の5学会は合同で細胞小器官用語検討委員会を設置して「小胞体」の名称変更について検討することにしました。委員会での検討と並行して、みなさまから広くご意見を伺いたく、パブリックコメントを募集いたします。

さまざまな視点からのご意見をお待ちしております。

パブリックコメント募集リンク(受付締切2025年4月30日):
https://forms.gle/Aka8ykb9xfXJuSET6

<命名の歴史>

1940年代の電子顕微鏡を用いた研究によって観察されていた細胞内の網状構造は、1953年に「endoplasmic reticulum(ER)」と命名されました(文献1、文献2)。日本では、1955年に「小胞体」という名称が提唱され、現在に至っています(文献3)。当時から、ERがシートやチューブ状構造を取り得ることが認識されていましたが、電子顕微鏡法によって部分的に観察された小胞様構造に基づき、「小胞体」という名称がつけられたようです。当初は、ERの同義語として提唱されましたが、訳語として定着しました。なお、「小胞体」は「ミクロソーム」(超遠心法によって得られるER断片を含む細胞画分)の訳語ではなく、ミクロソームと小胞体が異なる概念であることは命名当時に認識されていました(文献3)。

<形態学的問題>

三次元電子顕微鏡法や蛍光顕微鏡法の発展によって、ERは細胞全体に広がるシートおよびチューブ状の細胞小器官であることが明らかになり、もはや「小胞体」という名称が現在の理解にそぐわないものとなっています。そのため、教育や研究の現場で誤解も生じており、高校生や大学生の中には、ERを小型の球状小胞の集まりだと誤解するものが少なくありません。実際に、「小胞体」という名称が適切ではないという意見もこれまでにありました。例えば、「ERは、小胞と呼ぶにはふさわしくない広がりを持っている」とのことから「膜胞体」という用語が提唱されたこともあります(文献4)。海外では「endoplasmic reticulum」がそのまま翻訳されているケースがほとんどで、中国語でも「内质网(≒内質網)」と表記されています。

<名称を変更した場合の課題>

「小胞体」という名称がすでに広く定着している現状を考えると、変更した場合には大きな混乱が生じることが予想されます。また、「小胞体」は単独で用いられるだけではなく、「粗面小胞体」「滑面小胞体」「小胞体膜」「小胞体ストレス」など、他の用語と組み合わせて使われることも頻繁にあります。そのため、名称変更は慎重であるべきだとも考えられます。しかし、教育の場で誤解を生じうる名称であることを考えると、たとえ今後10年の混乱があったとしても、将来の50年先、100年先を見据えた検討が必要だと思われます。

<細胞小器官用語検討委員会における検討>

以上の観点から、日本細胞生物学会、日本生化学会、日本解剖学会、日本分子生物学会、日本遺伝学会の5学会は合同で「細胞小器官用語検討委員会(資料1)」を設置し、「小胞体」の名称を変更すべきかどうかについて検討することといたしました。
これまでの議論では、以下のような意見が挙がっています。

委員会では、名称を変更する場合に、代わりとなる良い名称があるかどうかという観点から検討を始めています。これまでに10を超える案が挙げられており、比較的ポジティブな意見が多かった候補名としては、ERの訳に近い「内網体」、小胞体に近い「網胞体」や「内胞体」などがあります。

資料1 細胞小器官用語検討委員会委員名簿
https://www.jscb.gr.jp/app/uploads/2025/02/yougokentou1.pdf

資料2 甲賀大輔先生提供資料
https://www.jscb.gr.jp/app/uploads/2025/02/yougokentou2.pdf

パブリックコメント募集リンク(上記記載と同じ)
https://forms.gle/Aka8ykb9xfXJuSET6

文献

  1. Porter KR. Observations on a submicroscopic basophilic component of cytoplasm. J Exp Med. 97:727-50 (1953) doi: 10.1084/jem.97.5.727.
  2. 渡辺陽之輔. 小胞体の発見. 生体の科学. 28:318-321 (1977) doi.org/10.11477/mf.2425903203
  3. 渡辺陽之輔. 細胞質内の小胞系について. 電子顕微鏡. 4:89-91 (1955) doi.org/10.11410/kenbikyo1950.4.63
  4. 佐藤七郎. UPバイオロジー 細胞(1975、東京大学出版会)

細胞小器官用語検討委員会
委員長 水島昇
(問い合わせ先:日本細胞生物学会事務局 jscb@nacos.com)