一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

膵前駆細胞モデルAR42Jの培養

author小島 至
所属群馬大学生体調節研究所細胞調節分野
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Home Pagewww.imcr.gunma-u.ac.jp/lab/celphy/
Keyword膵前駆細胞、分化
Published2012-01-26Last Update2012-01-26
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概要・原理

ラット膵腺房由来の腫瘍細胞株AR42J細胞は、腺房細胞に由来し、外分泌と内分泌の両方のプロパティを表現している。 AR42Jを用いることにより,外分泌細胞と内分泌細胞の分化過程が検討可能である。AR42J細胞はアミラ-ゼを産生・分泌する細胞であるが,同時にシナプトフィジンやニュ-ロフィラメントなどの神経細胞マ-カ-を産生する点において膵共通前駆細胞に類似した性質をもつと考えられる。

装置・器具・試薬

  • DMEM-low glucose (Sigma D5523)
    セルバンカー(細胞凍結用:WAKOコードNo.630-01601,100ml\12800)

詳細  *それぞれの写真をクリックすると拡大します。

    • 【Medium準備 (*1)】

      ■DMEM-low glucose(1pac for 900mlDDW) (FCS加えてfinal1000mlとなる)

      ■NaHCO3 2.1g/l (*2)

      ■(必要に応じてペニシリンG 50mg/l orストレプトマイシン75mg/l) 以上を800ml程度のDDWに加え、pH:7.5前後である事を確認する。 通常pHをadjustする必要はない。

      ■DDWで、900mlにメスアップ

      ■培養室キャビネット内で、フィルターにて無菌化する

      ■450mlづつオートクレープしたガラス瓶に移す

      ■FBSを10%となるように(つまりFBS50ml)加える
    • 『解凍』

      ① 解凍 AR42J細胞を液体窒素よりとりだし、急速解凍。37度の液槽にて解凍し上記Medium20~30mlに50mlファルコンチューブ内で混ぜる。

      ② ピペッティング(なるべく泡立たないように)

      ③ 遠心700rpm 4分

      ④ 上清を滅菌パスツールピペットで吸い出す。(ファルコンを傾けてなるべくふちで)

      ⑤ Medium 2mlを入れ、ピペッティングしたら35mmディッシュ1枚へ蒔き、インキュベート。

      ⑥ 翌日、メディウムチェンジする。 35mmディッシュで、底面にアタッチしている細胞が極めて多い場合には、メディウムチェンジではなく、60mmディシュへ移し変える
    • 『メディウムチェンジ』

      ① Mediumを暖めておき、無菌的に50mlのファルコンチューブに分注しておく。

      ② 無菌的にパスツールピペット(綿なし)を取り出し、吸引につなぐ。

      ③ ディッシュの蓋を取り、本体を傾けつつピペットで吸引する→ディッシュに触れさせないこと。最後まで吸いきる。

      ④ 暖めておいたPBSをディッシュの内壁につたわせるように入れる。

      ⑤ やさしく揺らしたら、PBSを吸引。

      ⑥ Mediumをディッシュにいれる。この際もディッシュのはじにゆっくり注ぎ込む。

      ⑦ インキュベートする。
    • 『継代』

      ① AR42J細胞は「葡萄の房状」に成長してゆくため継代のタイミングが「○○%コンフルエント」と表記しにくいが、およそ添付の写真位(Fig1.倍率40倍、Fig2.倍率100倍)を目安に、継代する。

      ② メディウムを吸引する。

      ③ 暖めておいたPBSを10mlディッシュの内側壁に伝わらせて入れ、軽く揺らして洗浄、吸引。

      ④ PBSを10ml入れて、今度はデタッチさせる。ブルーチップではなくピペッターを使用!

      ⑤ やさしくピペッティング数回して、細胞をばらけさせる。

      ⑥ 無菌の50mlチューブに移し遠心700rpm×4分

      ⑦ 上清を吸引、メディウムを加えてピペッティングし攪拌

      ⑧ 約10倍に希釈して必要な枚数分蒔きなおす

      ⑨ (3~4日おきに継代すると良い)
    • 『凍結』

      細胞の状態は100mm dishにspritして2~3日位の状態が良い。 基本的に100mm dish1枚-1~2本で凍結すること。細胞数だと5×106個/1本程度。

      【保存方法】

      ① バイセルを4℃の冷蔵庫から取り出し、氷冷しておく。

      ② セルバンカー(WAKOコードNo.630-01601,100ml\12800) 1ml×必要本数分 なければ(Filtered)DMSO 1ml+Medium 9mlを50mlファルコンチューブに混ぜて、氷冷(=10本分)。

      ③ 通常通り、AR42J細胞をPBSで剥離・単離する。

      ④ 50ml容器に細胞・PBSを入れ、遠心700rpm 4分。

      ⑤ 上清を吸引し捨て、②で作った保存液を必要な本数分加える。

      ⑥ セラムチューブに分配。

      ⑦ バイセルにセラムチューブを入れ、-80℃のフリーザーに入れる。

      ⑧ 8時間経過したら,液体窒素の中に入れる。

      バイセルを使わない場合

      セラムチューブへ1mlずつ分注した後 ①氷中で5分→②-20℃で50分→③-80℃で12時間→④液体窒素へ保存

工夫とコツ

  • (*1) 従来pH安定化のためにHEPESを使用していたが、今回のマニュアルでは使用しないこととした。

    (*2) DMEMのパッケージには3.7g/lのNaHCO3とあるが、生理的には25mMでよいと考え、今回のマニュアルでは25mMとした。

参考文献

  • Mashima.H., Ohnishi,H., Wakabayashi,K., Miyagawa,J., Hanafusa,T., Seno,M., Yamada,H. and Kojima,I. (1996) Betacellulin and activin A coordinately convert amylase-secreting pancreatic AR42J cells into insulin-secreting cells. J.Clin.Invest. 97: 1647-1654.