一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.16 April (1) さようなら,そしてこんにちは

中野 明彦 (東大理/理研中央研)

 前号に米田さんが書いたように,紙として会報「細胞生物」が会員の皆さんに配られるのはこれが最後の号となる。その最後に巻頭言を書けと後藤さんに命じられたのは,紙を廃止することにした張本人の1人だからまぁ仕方がない。前に一度書いた!と頑張ったのだが,二度目という人もすでに何人かいるようで,まぁやむを得まい。前号の米田さんも似たような罪だ。

 でも,最後の巻頭言となるとちょっと気が重いなぁと思っていたのだが,どうも会報で一番読まれているのがこの巻頭言のようで,インターネット/メール版になったとしても廃止しないで欲しいという声が多い。インターネット/メール版は毎月発行の予定なので,毎号というのはたぶんちょっと難しいが,たぶん似たようなコラムは継続することになりそうである。巻頭言ファンの方は安心して欲しい。もしかすると名前は変わるかもしれないけれど,一言言いたい人,何も言いたくないのに無理やり頼まれた人,いろんな人が好き勝手なことを言うコーナーはぜひともこれからも続けよう。

 しかし実は,一旦は最後の巻頭言かもしれないと覚悟したので,これはこれまでの巻頭言を総括した方がいいのいかな,と,2月初めのとある日,京都出張のついでに学会事務局のある中西印刷に寄り,会報のバックナンバーを見せてもらった。30分くらいでざっと目を通そうと。

 いやぁとんでもない...これははまりましたな,おもしろくておもしろくて。3時間くらい座って読みふけってしまった。巻頭言って,昔からあったわけではなく,初登場したのは1989年の8月号,約16年前(十分昔か)。このとき会報を担当していた庶務幹事は,われらが現会長,永田さんである。そもそもこういうコラムを作ろうと考えたのは,学会きっての文化人,永田さんに違いない。確認していないけれどそうに違いない。では,第1号の巻頭言を書いたのは誰でしょう?これは前会長の廣川さん。⇒分子細胞生物学の新たな展開を目指して,とある。今では当たり前のこの言葉も当時は新しかった。巻頭言ではないけれど,その少し前の号には,田代,矢原,瀬野,廣川による座談会「CSFの新しい波」が掲載されている。これも司会は永田さん。写真がまた皆さん若い。いや,そんな懐古ではまったのではない。この座談会がまたおもしろい。評議員の方々は覚えておられよう,昨年の大会での熱い議論。CSFはどうあるべきか,って16年前も似たような真剣な議論をしてたんだなぁと改めて感心した。

 この年の大会で,8つのワークショップが開かれているのだが(当時はシンポジウムではなくワークショップと呼んでいた),これも現在の数とほぼ同じで,参加者が熱く参加できる適正な数って変わらないもんだなと思う。ワークショップの演者を見ると,これまたおかしくて,月田,西田,中野なんて名前が偉そうに単独名で並んでいる。ほぼ同世代のこのあたり,当時は30代半ばだったはず。若手が出しゃばれるいい学会だったんだなと思う反面,今も変わらずこの辺が学会の中核にいるというのは,下の世代には邪魔な存在だったかもしれないなとやや複雑な思い。これからの若手の台頭に期待しよう。

 さて,その廣川さんの第1号以来,この号まででのべ92人の方が巻頭言を書いてきた。誰に依頼するかというのは庶務幹事の重たい仕事なので,そのときどきの担当者の趣味によってずいぶんカラーが違うのもおもしろい。細胞生物学に対する,あるいはサイエンスに対する思い入れを述べるパターンが一番多いように思うが,文学,音楽といった文化に関する一家言や,環境問題,教育問題などの社会派のエッセイも少なくない。前号に米田さんが引用した故松本元さんの「Number 1よりOnly 1を」というのは忘れられないものの1つだし,江橋節郎さんの「天動説」も読み直して見ると考えさせられるところが多い。2人の柳田,柳田充弘さん,柳田敏雄さんがかなり早いころに書いていたのもへぇーという感じであった。女性は8人で,1割足らずというのはもちろん決して多いとは言えないが,印象に残るものが多かった。2001年の「21世紀は女の時代」「21世紀は男の時代」という原口・平岡ご夫妻の2号連続の寄稿も覚えている方が少なくないだろう。私の好みでは,何といってもイチ押しは吉森さん。APOCBのプログラム案内号も兼ねた113号に掲載されたMr. Beanの筆致は,間違いなく今日の吉森を築くのに貢献したと思う。

 こう書かれると読んでみたいなと思う人いませんか?一度読んだ人も読んでない人も。全部綴じて特別号として出版しましょうかね。「こうやって紙で残っているといつまででも読めるんですよ」という中西社長の言葉もちょっと重たかったが,インターネット版になったって保存する術はもちろんあるのだから,大事なものは大事にしよう。

 さて,これからの細胞生物学会について,あるいはCell Structure and Functionについて,書きたいことは山ほどあるのだが,今日はやめておこうと思う。大会についてもCSFについても,ここまで大きな改革を目指したからには,あとは黙って成功させるのみ。その歴史を閉じる紙バージョンの「細胞生物」には一旦別れを告げ,また新しく登場するインターネット版会報で,この学会のことを,そして細胞生物学というサイエンスのことをみんなでわいわい語り合っていこうじゃないか。紙の細胞生物よさようなら。新しい細胞生物よこんにちは。


(2005-04-05)

日本細胞生物学会賛助会員

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