一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.14 October (1) ○○さんにエール

後藤 由季子 (東京大学分子細胞生物学研究所)

 マイノリティに対する差別が問題になっている時,マイノリティの側が主張するとどうしても余り気持ちの良い物でなくなるような気がして,私は出来るだけ「男女共同参画関連もの」からは逃げ回って来ました。しかし,最近何人か「この人は出来る!」と思った女子学生が意外と自信が無くてチャレンジを逡巡するというケースを見たので,彼女たちに個人的にエールを送りたいと思って敢えてこの文章を書くことにしました

 某Y先生はある国際学会にて,活躍しているアメリカ人の若い研究者を指して「彼女などはきっと,特に女性だからという意識もなく,ただサイエンスが好きで,そのまま独立してすくすくと育っているのだろう。日本にももっと沢山の女性がすくすくと肩肘張らずにラボを運営する時代が来ると良いのだがねえ。」と言われました。私はまだ博士を取り立てで,ラボを運営するなど大それた事だと考えていた頃でしたので,「普通にしていればよい」というY先生のメッセージは随分と気を楽にしてくれたものでした。その後,私はアメリカに2年ばかり留学しましたが,それがまた決定的に私の意識の持ち方を変えてくれました。沢山の女性が「普通に」上を目指し,家族を大事にしながら優れた研究をしている。しかも,結構人気と実力のあるラボのボスが非常にフェミニンだったりする。男勝りでないと生き残れないと思っていた私には目からうろこでした。また,あるメキシコ人の友人が「アメリカに来ると教官に女性が多いから,自分がこの世界(サイエンス)に居てもいいのだ,という気になれる。上にロールモデルがいなければ,自分はそもそもここに居て良いのかと疑問に思うのが自然な感情だ」と言っていました。だから私は女子学生の人達に伝えたい。日本では余り見かけないかもしれないけれど,アメリカには家庭もサイエンスも目一杯エンジョイしている魅力的な女性が掃いて捨てるほど沢山居ます!とにかく,アメリカ生活を経てすっかり気楽になり,私みたいな欠陥品でもボスになってよいのではという希望が芽生えました

 目指す山は登るほどに高く見え,これでもかと壁にぶちあたりもしますが,素敵な学生さん達と共に好きなサイエンスを続けていられる幸福を思えば,これからも「すくすくと(?)」やっていきたいと思います


(2003-10-01)

日本細胞生物学会賛助会員

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