一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.13 October (1) 他人の発表をビデオ撮影?

上村 匡 (京都大学ウイルス研究所)

 皆さんにお尋ねしたいことがあります。学会会場にビデオを持ち込み口頭発表を撮影したり,ポスター会場で議論もせずに撮影だけして立ち去る行為を,どうお考えになるかです。以前,カリフォルニアにいる友人の一人が京都で開かれたある国際学会でポスター発表をし,その後,私を訪ねてくれました。その学会の模様を尋ねたところ,次のような返事でした。「たくさん私のポスターに来てくれたのだけれど,多くの人がビデオ片手に逐一撮影した後,こちらから話しかけても,『結構です。』と言ってそのまま立ち去ってしまった。私のポスター以外でも,他のポスターをビデオやカメラ撮影している人が何人もいた。私はとても神経質になってしまった。」

 友人はその美しい微笑みを崩さずに話してくれたのですが,それがかえって私をとても恥ずかしくし,心の中に暗いシコリを残しました。国内にいる友人の一人とこのことを話題にしたところ,「日本国内の非公開の研究会で口頭発表したら,別のグループに逐一ビデオに収められた。」と聞かされ,その友人の無念さを察しました。私の危惧は,上記のような現象は日本で開催される学会に特有の風景ではないかということです。

 以上の行為がなぜ悪いと居直られたら,その居直った人に説明するのは苦痛です。居直った人は, Gordon Research ConferenceやKeystone Symposiaでそんなことをする度胸が(そんなのは「度胸」とは呼ばないが)おありですか?もし誰かがそんなことをしたら,撮影された本人や主催者は黙っているでしょうか?他人の発表をビデオで撮影することそのもの,さらには,「発表者から話しかけられてもDiscussionもせずにビデオ撮影だけして立ち去る」など,私は最低の行為だと思うのですが,皆さんいかがお感じでしょうか。

 上記の友人達のコメントに端を発し,いくつかの議論が交わされ,「一体,学会発表は何のためにするのか?」との極めて理性的なコメントをある方から頂きましたが,そのあたりはまた別の機会に紹介させて頂きます。ここでは,以下に二つの全く異なる見解を記しておきます。「そのような行為は著作権侵害に等しいし,そもそも恥だ。恥を知らんのか,恥を!何も知らない大学院生は,ただ単純に大人のやっていることをまねて育つ。ああ,こわー。」「最近の記録機はどんどんハイテクになっており,やる気になれば気づかれないようにビデオ取りは容易にできる。学会発表する以上, おおっぴらに撮影されようが隠れてされようが同じことだ。石器人のような古くさい仁義を持ちだすのは滑稽もいいところだ。」

 この巻頭言を読んでいるあなた,もしかしてご自分のラボのメンバーに,「あのポスターをビデオに収めてこい。」とか言ってません?来年度の細胞生物学会と,さ来年度の分子生物学会の運営に,微力ではありますがお手伝いをさせて頂くことになりました。その際,「ビデオ撮影禁止」などと低次元の立て看板を用意する必要に迫られたり,実力行使に訴えなければならないような状況は願い下げにしたいものです。

 なお,この文章は昨年「ショウジョウバエ研究者のためのメーリングリスト/Jfly」において,私の投稿をきっかけに行なわれた議論を参考にさせて頂いたことを御断り申し上げます。


(2002-10-01)

日本細胞生物学会賛助会員