一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.4 May (1) Number 1 より Only 1 をめざす研究へ

松本 元 (電子技術総合研究所 超分子部)

 人生は夢であり、我々は科学研究という所作の中でこの夢を設定し、その実現を願って生きている。夢は容易に実現できないから夢であり、従ってこの困難や試練が大きければ大きい程、夢が実現できたときに得る感動も大きく十分な満足が得られる。しかし、現在の科学研究の推し進め方をみてみると、本当に大きな研究の夢を設定できるような外的条件は、極めて難しい。それは、研究プロジェクトが通常3年間という極めて短期間であることと、その間に論文としてまとまった成果の出ることが求められるからである。この結果、研究者は実現できるかどうか判らない夢のようなテーマを設定するのを止め、3年間でやればできると見込めるテーマを設定し、これを次々とこなして一生を過ごすということになる。この事が、研究から感動を奪い、研究をつまらないものにしているのである。研究は本来夢への挑戦であり、夢の現実に向かって日々挑戦して毎日毎日を精一杯活き活きと生きることで、結果はそれについてくるものと考えるべきである。結果を得たとしたら、その人はむしろ実現できる程度の夢の設定の小ささを恥じるべきで、決してむやみに誇るべきものではない。現在普通に行われている研究が成果第一主義であることは、この意味からいって誠に悲しむべきである。この風潮は、米国から発生し、欧州や日本にも支配的になりつつある。従って、多くの研究者は現在最も多くの研究者が関心のある問題に挑戦し、その中で一歩でも抜きんでようと努力する。現在の研究の大道で、ナンバー1になろうとするのである。このようにすることが、研究費獲得に有利であるから、また短期間である程度の成果を確実に得られるからである。しかし、この様な研究では例えナンバー1になり得たと思っても真の感動が得られず、研究という所作から真の満足が得られないのである。人は自分が他の人からその存在を意義深いと思われないと生きられないような遺伝子を進化の過程で、特に強化された動物である、と定義できると私は考える。この為に、最も良い生き方は自分を生きるということであろう。自分でなければできない夢を設定し、その夢に燃えて生きることである。言い換えると、ナンバー1よりオンリー1をめざす研究の夢と進め方である。ナンバー1をめざす研究者は、道は1つであり、その中にあって先頭に出ることだけをいつも考える性癖があるので、学問に於いて深くても器量が狭い傾向がある。器量というのは、自分と異質のものを受け容れる度量の大きさである。しかし、研究においての夢の設定は、研究者自身がいかに生きて来てこれからいかに生きようかという全人格的問題と深く関連するものであり、従って各人各様であるべきである。すなわち、異質な夢のそれぞれの価値を我々が受け容れる度量をもつことが、豊かな研究社会を築く礎と言えよう。研究を研究成果で評価するより研究者個人あるいは研究チームの夢や哲学・その進め方を重視する方向であらねばならないだろう。研究そのものの進め方もその評価方法も欧米追随であってはならないのである。


(1993-05-01)

日本細胞生物学会賛助会員