一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

Vol.28 April - May (1) ランニングと研究

椛島健治 (京都大学医学研究科 皮膚科)

細胞生物学会には2016年の京都大・病理の松田道行先生が会頭の時に初めて参加させて頂き、そのざっくばらんな雰囲気に魅せられ、そのまま入会しました(実は、吉森会長とマラソン仲間という理由が一番大きい?)。

さて、私は現在46歳ですが、40歳になった時を契機に、自ら手を動かして実験をする事を止めました。ただ、実験は意外に良く体を動かしているもので、研究を止めたとたんにストレスが溜まり始めました。これを平和的に解消するためにいろいろな事を試みました。ただ、スポーツジムは、会員になっても通うのが面倒臭くなり、数ヶ月に一回というペースに落ち着くのでお金の無駄になります(同じ過ちをこれまで何度も繰り返しています)。ゴルフは、OBの連発で返ってストレスが溜まります。テニスはパートナーやコート探しが面倒です。ということで、鴨川沿いのジョギングがいわば消去法的な形で残りました。しかもジョギングシューズを買えばいいだけなので安上がりです。自分に適した趣味やストレス発散法をみつけることで、人生は随分と楽になります(ちなみに銭湯に行くのも僕のストレス発散法の一つです)。

ニーチェ曰く、「男が本当に好きなものは二つ、危険と遊びである」。でもこれって、別に男と関係なく、サイエンティストにも当てはまりますよね。そしてそういう性(さが)は仕事だけでなく、趣味にも反映されるものです。

「せっかくジョギングをするのであれば、チャレンジングに激しく遊びたい!」ということで、一年目のシーズンに、福井駅前マラソンハーフマラソンを皮切りに、JAL千歳マラソン、丹後ウルトラマラソン(60km)を完走しました。今はランネットというサイトなどで簡単にエントリーできます。無謀とも言えるようなエントリーの仕方をするところに自分らしさが良く出ています。

よく、「僕はフルマラソンなんてとても走れない」と勝手に決めつけている人に会います。ただ実は、マラソンと研究への姿勢は概ね共通しています。僕はとにかく自分の限界以上のところまで挑戦し、そして失敗を介して限界を悟り、ただその次は、その限界を超えようとします。自分の性格が反映されやすいスポーツだと思いますが、逆にマラソンを介して自分自身が変化できる可能性もあり得ます。

2年目のシーズンは、フルマラソンの3時間半切りを目指しましたが達成できず、また、サロマ湖100 kmウルトラマラソンでは、右の腸脛靱帯炎がひどくてロキソニンを10錠以上飲みながら、何とか完走しました。ケガがあると、マラソンそのものもつらく、趣味が楽しみというよりも苦行のようになりかねませんでした。速くなりたいがために練習をすればするほどケガも起こるというジレンマに苦しみました。その点、研究はいくらエネルギーを注いでも普通ケガをすることはないので、特に若い研究者の皆様はとことん実験を満喫してください。

3年目のシーズンも、前半は、福地山、紀州口熊野マラソンと3時間半を切れずに悔しい思いをしました。別府大分マラソンの出場資格は3時間半切りですから、このままだめかと諦めの思いもありました。

ところが、2年目シーズンの途中で大きな転機がありました。それは京大呼吸器外科の伊達洋至教授との出会いです(伊達先生のフルマラソンのベストタイムは2時間48分)。自分よりもレベルの高い人と交流することで、自身に変化が現れ、シーズン最後の能登和倉万葉の里マラソンで3:24:17という記録が出せました。今は山中伸弥先生とも一緒に定期的に走っています。

いい仲間に恵まれることは、本当に幸せな事です。ジョギングに関する本を買って勉強しましたが、座学だけでなく、人との交流を通じて人間は成長するものです。職場も同じで、低きに流れるような組織に属するのは不幸です。それを避けるためには、自分自身が組織を良くしようという意識と努力も必要となります。環境を自分では選べないときもありますが、その時は自身で環境を良くするように努力しなければなりません。成果が上がらないことを周りにせいにする人をよく見かけますが、自己努力が足りていないことがほとんどです。

4年目のシーズンは、あこがれの別府大分マラソンへ呼吸器外科の先生方と一緒に参加でき、一皮むけて3:07:33でした。この大会は市民ランナーのあこがれの大会です。一般的なマラソン大会とは雰囲気が全く異なります。何が違うって、「全て」が全然ちゃいます。これは体験した人にしかわかりません。ですから、若い人達には、何事にせよ、頭の中で考えるだけでなく実際に行動して経験してもらわないと。。。。研究がうまくいったときの喜びも、これは経験した人にしかわからないですよね。そしてそこに至るまでの道程が厳しかったときほど代えがたいものとなります。

5年目のシーズンは、別府大分マラソンで漸くサブスリーを達成できました(2:58:15)。年も年なので、肉体的には伸びしろはあまり残っていないでしょう。ただ、一緒に参加している知人は、49歳にして自己ベストを更新し続けています(別府大分では2時間56分)。人はいろいろと自分に言い訳をつくって楽になろうとしますが、年をとることでできなくなると思っていることの多くは、自身の心の内の甘えだけなのかもしれません。

その他、ウルトラマラソンは、野辺山ウルトラマラソン(100 km)などを楽しみました。ウルトラマラソンはタイムを競うというよりは、自然の美しさを楽しみ、そして10時間あまりを自己と対峙しつづけるある種の座禅のようなもので、心洗われる感覚があります。

「練習したりする時間がよくあるねー」と知り合いに言われたりしますが、自宅と大学の通勤ランと出張時の大学と京都駅などの往復になります。新宿の京王プラザホテルで学会の場合は東京駅から走ったりしています。基本的にはエレベーターも使わないようにしています。体を動かすことを日常に組み入れることが、結局一番続けやすいようです。自分の性格や特徴を見極めて自分をいかにうまく操ることの大切さは、マラソンに限らず、仕事などでも当てはまります。

所詮は趣味ですが、されど趣味でもあります。自分が一度立てた目標に向かって努力すること、そして自分の目標が達成できないときには悔しいという感情が湧いてこなければ、それはとても残念なことです。悔しさや喜びといった感情は、真剣に取り組む人にしか味わえず、そういう経験をできることは幸せなことです。やはり、「科学者が本当に好きなものは二つ、危険と遊びである」。サイエンスとささやかな趣味であるランニングをこれからも満喫したいと思います。


(2017-04-13)

日本細胞生物学会賛助会員