一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

2016-10-10 「人のやらないことをやる」

吉田秀郎 (兵庫県立大学大学院生命理学研究科)

2007年、Oxfordで開催されたGordon Conferenceで大隅先生に初めてお目にかかった。ゴルジ体ストレス応答という全く聞いたこともない研究テーマをひっさげた新任PIの話を熱心に聞いていただいた。想像するに、大隅先生はゴルジ体ストレスに興味があったのではなく、誰もやっていない研究を日本の無名の若者が立ち上げ、孤軍奮闘している姿に少々心を惹かれたのではあるまいか。

2016年、大隅先生のノーベル賞受賞インタビューを見たとき、「人のやらないことやる」という先生の言葉が心に沁みた。大隅先生と小職では志のレベルが全く異なるが、大隅先生は、まさに心の同志である。

大隅先生がオートファジーの研究を始めた頃のように、ゴルジ体ストレス応答は研究者の数も少なく、論文が引用される数も少ない。流行の研究では全くないし、研究費も…。しかし、変な競争もなく、のびのびと心ゆくまで自由に研究を楽しむことができる。しかも、細胞小器官の量的調節機構という重要な課題に直結しているようだ…。

毒食らわば皿までということでDORA宣言(脚注参照)に署名し、2009年以降論文はすべて細胞生物学会誌Cell Structure and Functionに出すことにした。おかげさまで研究費は激減したが、ありがたいことに論文賞3個という評価を得ることができた。科学は出世や金儲けの道具ではないのだから、これでよいのだ。いいですよね、大隅先生!

【DORA宣言】
個々の科学者の貢献を査定する、すなわち雇用、昇進や助成決定をおこなう際に、個々の研究論文の質をはかる代替方法として、インパクトファクターのような雑誌ベースの数量的指標を用いないことを宣言する


(2016-10-10)

日本細胞生物学会賛助会員

バナー広告