一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

新着細胞生物学用語集(アクチン・ミオシン)

ミオシンII阻害剤 (blebbistatin, Y27632, ML7など)
【Myosin inhibitors (blebbistatin, Y27632, ML7)】
米村 重信
理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター (CDB)
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Blebbistatinには鏡像異性体の(-)体と(+)体とがあり、(-)体が効果を持ち、(+)体には効果がない。(-)体は横紋筋のミオシンII、非筋ミオシンIIのATPase活性をIC=0.5-5μM程度の強さで阻害する。培養細胞には(-)体なら5-50μMの濃度を使用することが多い。ミオシン-ADP-Pi複合体に結合し、リン酸の放出を抑制することでATPaseのサイクルを阻害する。平滑筋のミオシンIIやショウジョウバエの非筋ミオシンIIには効果がない。ミオシンIIは脱リン酸化を受けるわけではなく、会合したまま存在する。細胞性粘菌のミオシンIIにも効果を持つが、ミオシンIIを発現しない細胞性粘菌の一部の活動を抑制することから、副作用がないわけではないことがわかっている。GFPを励起する波長によりblebbistatinが細胞毒性を示すため、ライブイメージングのためには、より長波長で励起される蛍光分子を用いることが必要である。
 BDM(2,3-butanedione monoxime)も一般的なミオシンIIの阻害剤として使用されるが、骨格筋ミオシンIIには作用があるものの、非筋ミオシンIIに対しては阻害効果がないこと、むしろアクチン重合への阻害が見られることがわかっている。
  Y27632はROCK/Rho-kinaseをATPと拮抗的に阻害する。細胞においては10-30μM程度の濃度でよく使用される。ROCK/Rho-kinase活性の阻害により基質の一つであるミオシン調節軽鎖(MRLC)のリン酸化は抑制され、また別の基質であるMYPT1のリン酸化が抑制されることによりMYPT1をサブユニットとするミオシンフォスファターゼが活性化し、MRLCの脱リン酸化が亢進する。これによりミオシンIIのATPase活性の低下、脱重合が起こるため、細胞内のミオシンIIの機能は低下する。ストレスファイバーの崩壊など、アクチン細胞骨格の大きな変化が見られる。ROCK/Rho-kinaseの基質は他にもあるものの、多くの細胞において上記の変化は目立つ。
 ML7とML9はそれぞれミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)をATPと拮抗的に阻害する。しかしその細胞への使用には大いに注意が必要である。MLCKによるリン酸化部位を擬似リン酸化型に変えた変異MRLCを発現する細胞では、Y27632で処理をしてもその変異MRLCは影響を受けずに機能し続けるのでストレスファイバーに変化はないが、ML7で処理をするとストレスファイバーは崩壊する。これはML7がMRLCのリン酸化を介さずにアクチン細胞骨格に大きな作用をするということを示している。これが他の既知や未知のキナーゼの阻害によるものかはわかっていない。実際にMLCKのノックアウトマウスでもほぼ正常な胚発生を行うことから、MLCKが重要な働きをする細胞はかなり限られていると考えられる。
参考文献

サイトカラシンD
【Cytochalasin D】
大橋 一正
東北大学大学院生命科学研究科
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真菌の毒素から単離された低分子化合物でアクチンの重合阻害剤。細胞膜透過性である。サイトカラシンB等の誘導体が複数存在する。
サイトカラシンDの作用は、アクチン繊維のプラス端に高い親和性で結合し(kd値:2 nM)、新たな重合を阻害するものである。また、弱く単量体や2量体のアクチンに結合する(kd値:2.6-17μM, Mg2+存在下)。繊維芽細胞に対して作用させた場合は、細胞内F-アクチンの脱重合を促進しないことが報告されている。これに対し、活性化した血小板に作用させた場合には、血小板内のF-アクチンが脱重合することが報告されている。これまでの報告を総合すると、定常状態の細胞に対してサイトカラシンDを作用させた場合、細胞内のF-アクチンの脱重合は促進されないと考えられる。細胞内ではアクチン線維が重合と脱重合の平衡状態にあるため、サイトカラシンDのアクチンのプラス端キャッピング活性だけではこの現象を説明できない。アクチンのプラス端キャッピング活性の他に何らかのアクチン線維の脱重合を抑制する作用があると考えられる。
参考文献

ラトルンキュリン
【latrunculin】
渡邊 直樹
東北大学 大学院生命科学研究科
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 その体液が魚類に強い毒性を示す海綿(Latrunculia magnifica)から単離された化合物で、latrunculin AとBがある。単量体アクチンのATP結合部位近傍に結合(解離定数、0.2~0.4 μM)し、重合を阻害する。さまざまな細胞機能についてアクチン依存性の有無を検証するために用いられ、広く普及する化合物である。ただし、細胞に低濃度で使用すると、薬剤のもつ本来の作用に反して遊離単量体アクチン濃度を上昇させる‘latrunculin paradox’と呼ばれる効果が予測、報告されている。
参考文献

ジャスプラキノライド
【jasplakinolide】
渡邊 直樹
東北大学 大学院生命科学研究科
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 Jasplakinolideは、海綿(Jaspis johnstoni)から単離された環状ペプチドである。アクチン線維の脱重合を阻害する。ファロイジンのアクチン線維への結合と競合する。ファロイジンなどの他のアクチン脱重合阻害薬とは異なり、細胞透過性があるため、生細胞内でのアクチン脱重合阻害薬として広く使用される。特に、ある細胞機能がアクチン重合-脱重合のダイナミクスに依存するか否かを検証するために頻用される。インビトロでは、ファロイジンとは違いアクチンの重合核形成を著明に促進し、伸長速度も2倍程度まで加速する。細胞に用いた場合、1〜3分でアクチン脱重合の阻害と単量体アクチンプールの減少が観察される。また、アクチン脱重合因子コフィリンやそのコファクターであるAIP1のアクチン線維への結合を阻害する。
参考文献

細胞生物学用語集

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