一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

新着細胞生物学用語集(2011-09-01)

原形質と後形質
【protoplasm】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
原形質はprotoplasm,後形質はmetaplasm。前者は細胞の中の「生きている」部分,後者は原形質の活動によって後から作られた「生きていない」部分,というのがもともとの定義であった。後形質としては,たとえば植物の細胞壁や液胞がそうであるとされたが,今となってはこれが全くナンセンスであるのは明らかだろう。細胞壁や液胞も立派な生命活動の場なのだから。顕微鏡による細胞内微細構造の知識もなかった時代に使われた言葉であり,今では死語となったと考えるべきである。しかし,その派生語としては現在も使われるものが少なくない。たとえば,原形質流動(cytoplasmic streaming),原形質連絡(plasmodesmata),原形質糸(transvacuolar strands)など,植物分野でよく生き残っているように思われる。ただ,これも英語の方を見てもらえばわかるように,protoplasmという表現はもうほとんど使われていない。唯一,英語でもなごりが残るのがprotoplastsという言葉。プロトプラストとは,細胞壁を酵素処理して除き,細胞膜が露出した状態の細胞のことであり,これは現在でも頻繁に使われる。酵母では,同様に細胞壁を除いた細胞のことをスフェロプラストと呼ぶが,これは酵素処理しても細胞壁成分が完全には除き切れていないから。

ゴルジ体とトランスゴルジ網
【golgi body】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
ゴルジ体の構造は,一部の出芽酵母(たとえばSaccharomyces cerevisiae)のように,ゴルジ槽(Golgi cisternae)が層板構造をとらず細胞質中に散らばっているものから,植物や無脊椎動物のようにゴルジ槽が積み重なったゴルジ層板(Golgi stacks)が1つ1つ独立して存在するもの,哺乳動物のように巨大なゴルジリボン(Golgi ribbon)を形成するもの,と生物種によってさまざまである。しかし,その共通の特長として,入り口であるcis側から出口であるtrans側へ向けての機能的な勾配はよく保存されている。形態的に,cisとtransの端では,層板構造に連なる網状構造が見られることが古くから知られ,それぞれcis-Golgi network (CGN), trans-Golgi network (TGN)と呼ばれた。CGNは,ゴルジ層板近傍の中間区画(ERGIC)に相当すると考えると理解しやすい。一方TGN(日本語ではトランスゴルジ網と呼ぶ)については,ゴルジ体とは独立した別個の細胞小器官と考えた方がよいという考え方が浮上している。ゴルジ体の層板内を徐々に進行してきた積み荷タンパク質は,一旦TGNに到達した後,さまざまな目的地ごとに選別される。TGNがそこで果たす機能はきわめて多様であり,専門化した選別ステーションと考えるべきではないかというものである。驚くべきことに,TGNは植物では初期エンドソーム(early endosomes)としての機能ももつことが明らかになり,再循環エンドソーム(recycling endosomes)ときわめて近い役割をもつことも示されつつある。今後の研究の進展に目が離せない区画である。

細胞膜と形質膜
【plasma membrane】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
細胞膜は,plasma membraneあるいはplasmalemmaの日本語訳である。より直訳に近い形質膜という言葉も使われるが,細胞膜がすでに長年定着している。ときとして,cell membranesという一般的な語の訳として用いられ,生体膜全般を意味するような用法を見ることがあるが,大きな混乱を招くのでこれは避けるべきだろう。

細胞質とサイトゾル
【cytoplasm】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
これも前項と同様,歴史と共に意味合いが変遷してきている。細胞質(cytoplasm)は,細胞のうち細胞核を除いた部分,というのがもともとの定義である。したがって,本来の意味では,核以外の細胞小器官は全て含まれることになる。しかし,これも電子顕微鏡以前の定義であり,複雑な細胞内の微細構造が理解されるようになった今,核以外を全て一緒くたにして考えるというのは,あまり効率のよい話ではない。細胞質から細胞小器官や細胞骨格などの大型の構造を除いた,可溶性の部分のことを細胞質基質(cytosol)と呼ぶが,これも,リボソームやプロテオソームなどの巨大な分子複合体が含まれるのかどうかというと,結構微妙なことになってくる。ミクロソームが,超遠心ではじめて沈殿する膜分画と定義されたように,それでも沈殿しない画分をサイトゾルと定義してしまえば,ある意味すっきりするのかもしれない。現在では,cytoplasmicとcytosolicという2つの言葉はしばしば同様の意味に用いられている。本来の定義からするとけしからぬことかもしれないが,混乱のない限りやむを得ない流れなのかもしれない。一方で,細胞小器官を含む細胞質という概念も,細胞質遺伝(ミトコンドリアゲノムおよび葉緑体ゲノムが支配する遺伝様式のこと)という言葉でしっかり残っているので,場合によっては十分な注意が必要である。

小胞体とミクロソーム
【microsomes】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
小胞体はendoplasmic reticulum(細胞質中に広がる網状の構造の意)の日本語訳であり,ずいぶん本来の意味とニュアンスが異なっている。私見ではあるが,これはミクロソーム(microsomes)の直訳が転用され,定着したのではないかと思っている。ミクロソームは,細胞破砕液(homogenate)を分画遠心し,超遠心(100,000 x g, 1 h以上)で初めて沈殿する膜分画のことである。細かく破砕されて再び閉じた小胞体膜が最も多く含まれるが,ゴルジ体など他の細胞小器官も多く含まれるので,無論同義ではない。

静的残留と動的逆送
【static retention】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
AからBへという2つの細胞小器官の間でのタンパク質の輸送過程で,Bに進む積み荷タンパク質とAに留まるレジデントタンパク質の選別の概念。レジデントタンパク質が,Aから運び出されることなく留まるメカニズムが静的残留(static retention),Bに一旦輸送されてからAに送り戻されるのが動的逆送(dynamic retrieval)である。歴史的には,BiPなど小胞体に局在するタンパク質のシグナルとしてKDEL配列が同定され,当初小胞体残留シグナルと呼ばれたが,のちにゴルジ体から逆送されるためのシグナルであることが証明されて,より一般的な小胞体局在化シグナルという呼び方に落ち着いた。なお,retrievalは「回収,検索」といった意味の言葉であり,回収シグナルという表現も使われる。これを逆送と訳したのは,retrograde transport(逆行輸送)を意識した意訳である。

中間区画
【intermediate compartment】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
基本的に,さまざまな輸送の過程で中間区画を考えることが可能であるが,単にこう呼ぶと,小胞体からゴルジ体への輸送の中間区画(ER-Golgi intermediate compartment: ERGIC, あるいは単にIC)を指すことが多い。形態的な特長からTVC(tubulovesicular clusters)と呼ぶこともある。明確に定義されるのは哺乳動物をはじめとする脊椎動物の細胞で,ゴルジ体が核近傍,中心体周辺に巨大なゴルジリボン(Golgi ribbon)と呼ばれる構造を形成する場合である。細胞中に広がる小胞体のネットワークから,直接このゴルジリボンへの輸送が起こるのではなく,細胞辺縁部にも存在する中間区画がまずはゴルジ体行きの積み荷を集め,それからゴルジリボンへと移行させていく。酵母や植物,無脊椎動物では,このような形での中間区画は存在しない。これらの生物種では,ゴルジ体がリボン構造を形成せず,個々に独立したゴルジ層板が多数細胞質中に広がるため,中間区画を経由しなくても小胞体からゴルジ体への直接の輸送が可能であるためではないかと考えられる。したがって,中間区画は一種の幼若なゴルジ体であると考えることも可能である。一方,哺乳動物の中間区画には小胞体ともゴルジ体とも異なる独自の機能が存在し,進化の過程で新たな機能を獲得したという考え方もある。

内腔
【lumen】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
「ないこう」と読むのが正しいが「ないくう」でも通じる。英語ではlumen。細胞小器官のさらに内側の空間を指す。細胞質(cytoplasm)と膜を隔てて反対側,つまりトポロジーの上では細胞外と同等であり,実際,膜交通によって連絡可能である。それを意識して,exoplasmicあるいはectoplasmic spaceと呼ぶこともある。ただし,ectoplasmと言うとオカルト映画のおどろおどろしいものと同じになるので注意。ミトコンドリアや葉緑体など,細胞内共生に由来する複膜系の細胞小器官では,外膜と内膜に挟まれた膜間腔(intermembrane space)が同じトポロジーとなる。

膜交通と小胞輸送
【membrane traffic】
中野 明彦
東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
真核細胞の細胞小器官(organelles)のうち単膜系のもの,つまり,小胞体(核膜を含む),ゴルジ体,リソソーム/液胞,分泌小胞/分泌顆粒,エンドソームなどは,もともと細胞膜が細胞質内に陥入したことにより生じた細胞内膜系(endomembrane system)に属し,細胞膜を含めた複雑な膜交通(membrane traffic)のネットワークを形成している。細胞小器官の間のタンパク質輸送は,小胞(vesicles)が介在することが多いので小胞輸送(vesicular transport)とも呼ばれるが,細胞小器官同士の直接の接触や細管(tubules)の連絡でも輸送は可能であり,それらをひっくるめて膜交通(membrane traffic)と総称することが多くなった。業界では親しみを込めて「メントラ」と略称される。なお,膜輸送という言葉は,膜透過を意味する場合に使われることが多いので,混乱を避ける意味でも区別して使いたい。

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