一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

細胞生物学会の大きな改革

日本細胞生物学会
会長 永 田 和 宏
京都大学再生医科学研究所

 日本細胞生物学会では、昨年来、「ワーキンググループ将来問題検討委員会」(会長の諮問委員会)「日本細胞生物学会大会の将来を考える委員会」(会長の諮問委員会)「将来計画委員会」(学会内承認委員会)なども会議を重ねつつ、細胞生物学会のあり方について議論を深めてまいりました。それら各委員会の一応の結論がでましたので、ご報告、ご説明をしますとともに、会員の皆様方のご意見をうかがいたく存じます。 なお、この文章は、今回平成16年から17年末までの任期で、私が引き続き会長に選任され、執行部も継続することになりましたので、学会長としてご挨拶、運営の基本方針などを兼ねさせていただきます。

 日本細胞生物学会は、1950年(昭和25年)に日本細胞化学会として創立され、1964年(昭和39年)から日本細胞生物学会として活動を続けていることはご承知のことと存じます。発足当初より現在に至るまで、歴代の会長、運営委員、評議員を中心として会員諸氏の努力により、わが国における細胞生物学の発展に大きな役割を演じただけでなく、日本の細胞生物学の学問レベルの高さを世界に向けて発信し続けてきたことは、誰もが認めるところであり、細胞生物学会の誇りでもあります。しかしながら、近年は、長く続いてきたことのマンネリズムが一部に見られ、また分子生物学会などの大きな学会のはざまに立たされるという外的な要因も含め、客観的な現状認識に立って、学会そのもののあり方を真剣に模索する必要を感じざるを得なくなってきたことも確かなことであります。会員数や、大会自体への参加者だけから見ますと、横ばいといった傾向であり、大きな落ち込みというわけではありませんが、昨今の研究者人口の増加に比して、特に、大学院生、ポスドククラスの若手研究者の会員数や大会への参加数は、明らかに低迷しており、大会や学会にかつてのような元気と華やぎのようなものが徐々に失われてきているのではないかという感じは否めなくなっております。これは必ずしも細胞生物学会にのみ固有な現象ではなく、他の多くの学会においても同じような危機感のもと、ブレイクスルーへ向けての模索がなされていると聞いておりますが、殊に細胞生物学会の場合、細胞生物学という領域がいまや普遍的、かつもっとも重要なサイエンスの領域として、他の学会においてもそのカバーする領域がほとんど重なってきているという点に、ことの重大さを深刻に受け止めなければならない素地があります。いずれの学会においても細胞生物学的な手法や考え方が学問の主流になり、その一般化によって却って、細胞生物学会としての個別性・独自性が薄れてきていると言うこともできるでしょう。現在の細胞生物学会は、素晴らしい研究を世界に向けて発信している会員を数多く抱えており、そのサイエンスのレベルの高さは、国内の他の学会を見渡しても、誰の目にも明らかであります。しかし、その割には学会としての求心力に欠けるというのが偽らざる感想でもあります。これはなんとかしなければいかにも惜しい、惜しいだけでなく、学会として会員へ十分な責任を果たすという意味でも、事態をこのまま静観すべきではないというところから議論が出発いたしました。

 このような現状認識と問題意識から、引き続いて設立された3つの委員会では、如何にして細胞生物学会を活気に満ちた魅力的な学会にするか、特に若い研究者たちが自主的に参加してみたいと思うような魅力に満ちた学会の像を求めて、真剣に議論を重ねてまいりました。その結果、以下に述べますように、これまでに経験したことのない、きわめて大きな変革を断行することで意見の一致を見、運営委員会における承認を得ました。 しかしながら、改革は非常に大きなものであり、本年大会時に開催される評議員会において承認を得るまでに、広く会員からの意見をお聞きし、取り入れられるものは取り入れていこうと考えております。忌憚のないご意見を私ども執行部の方へ、お寄せいただければありがたく存じます。ご意見は、メールで私の方へ、あるいは庶務幹事の米田悦啓教授、CSF編集委員長の中野明彦教授いずれでも結構ですので、お寄せいただければ幸いです(メールアドレスは注1に記します)。

 すでに述べましたように、生命科学・基礎生物学における細胞生物学の重要性はますます大きくなれこそすれ、決してその重要性が薄れてきているというものではありません。しかしながら、現在の細胞生物学会として、特に大会への参加がさほど増加傾向にないことに関しては、率直に言って、学会への魅力が薄れてきているのではないかと危惧せざるを得ない状況にあります。さまざまの意見が出され、いずれに対しても真摯な議論がなされた上で、3つの委員会の議論を経て、運営委員会は以下の2つの基本的方針とそれに基く4点の具体的方策を承認いたしました。

基本方針

1.学会の活動の基本を大会に置く。

2.大会を生化学会や分子生物学会のような巨大な学会に近づけようとするのではなく、細胞生物学会程度の規模の学会で、参加者が本当に魅力を感じられるもの、すなわち大きな学会では得られないユニークな魅力に満ちたものにする。そのために、どのような大会にすればよいかを真剣に模索する。

 

このような議論のなかで、大会を魅力あるものにするにはどうすればよいか、具体的な提案がなされましたが、長い議論のなかで、次のような点に議論が集約されました。

具体的方策

1.どの学会においてもシンポジウムの乱立傾向が見られ、併催されるセッションが多すぎて、往々にして自分の関係するセッションしか聴講する機会を持てない。むしろシンポジウムを厳選し、みんなが一堂に介してシンポジウムを聴講できるようにする。また、自分と直接関係のないセッションにも参加することによって、細胞生物学の前線をみんなが把握でき、理解と興味を深められるようなものにする。

2.そのためには、大会毎の場当たり的なシンポジウムセッションの決定ではなく、細胞生物学を大きく7つの領域に分類し、それぞれの領域に相応しい研究者を委員とする、専門的なプログラム委員会を設け、中・長期的視野に立ってテーマを設定する。プログラム委員会に継続性を持たせることによって、各分野について、その数年間にもっとも進展の著しい、しかも多くの会員が興味を持ちうるトピックスを設定できるようにする。(このための具体的な組織づくりについては後注2を参照。)

3.現在のサイエンスの動向に鑑み、若い会員たちに英語で、世界の研究者と直接対等に議論できる場を提供する。そのために、世界からシンポジウムへのスピーカーを招待するほかに、ポスターセッションへも若手の研究者を海外から積極的に招待し、発表してもらう。

4.大会の基本は、新しい情報を得ることのほかに、自らの研究を発表するところにあることは言うまでもない。この原点に立ちもどり、ポスター発表に力を入れる。十分な討論の場と時間を提供することはもちろんのこと、海外からのポスター発表招待者だけでなく、invited speakersにもポスターセッションへ参加してもらい、ポスター会場において情報交換を行うとともに、若手の研究者同士の交流を深め、互いに交友関係を築ける機会を提供する。(平成16年度大会の招待規模等については、後注3参照。)。

 また、この基本方針ならびに具体的方策にのっとって、平成16年度大会の準備が、高井義美大会委員長のもと、鋭意進行中であります。その詳細については、本「細胞生物」の大会案内をご覧ください。

 このような議論の過程で大きな問題になってきたのは、Cell Structure and Function (CSF)をどうするかという問題でありました。詳しくは、中野明彦編集委員長が報告いたしますが、学会のすべての活力を大会運営に集中し、CSFの現在の形での発行を中止するという点が大きな変更であります。これはある意味では、大会の運営方針の変更以上に大きな問題であり、またCSFの培ってきた長い歴史を思うとき、軽々に判断すべき問題ではないことは言うまでもありません。議論の詳細は中野委員長の文章をご覧いただくとして、結論だけを申せば、CSFを年6回の発行から、年1回、当面は大会のアブストラクトとして発行するということであります。

 この決定に至った経緯において重要なことは、CSFの年一回刊行化というネガティブな捉え方ではなく、それ以上に、学会の持てる力を大会に集中することにより、学会全体を魅力あるものに活性化したいという強い意志であります。大会には上に具体策を示しましたように、多額の開催費を必要とします。それに全力をつぎ込むために、いま必ずしも会員にとって真に必要とされていないかのように、多くの会員が感じている雑誌の発行を中断しようというところに真意があります。この点をポジティブにとっていただいて、大会へ、そして学会へのよりいっそうのご協力を得たいと考えております。

 細胞生物学会は、いま不退転の決意とともに、大きな変革の一歩を踏み出そうとしております。ある意味では、この変革に学会の命運を賭けようとしていると言っても過言ではありません。学会の一極集中化が進むなか、いたずらに従来の型にこだわり、保身をはかるだけでは、学会が立ち行かないことは明らかな状況になっております。敢えて伝統ある学会誌を切り捨ててまで、大会を、そして学会を変革しようとする、多くの若いエネルギーに恃むところ大なるものがあります。

 是非、本年の大会に積極的に参加し、世界のなかの細胞生物学の前線を体験してみてください。会員それぞれのそのような積極性こそが、学会を魅力あるものにし、引いては学会を活性化するものであります。今年の、そして来年の大会がどのような大きな成功をおさめるか、会員諸氏とともに、私も楽しみにしているところであります。

注1:意見の送り先

永田 和宏  nagata@frontier.kyoto-u.ac.jp
米田 悦啓  yyoneda@anat3.med.osaka-u.ac.jp
中野 明彦  nakano@riken.jp

注2:プログラム専門委員会(太字が各分野の委員長)

細胞骨格・運動
竹縄(東大)、成宮(京大)、神谷(東大)、馬渕(東大)
接着・細胞外基質
月田(京大)、上村(京大)、高井(阪大)、清木(東大)、大野(横市大)、目加田(阪大)
染色体・核・遺伝子発現
米田(阪大)、大野(京大)、石川(京大)、加藤(東大)、花岡(阪大)
タンパク質の一生
永田(京大)、田中(都臨床研)、遠藤(名大)、中山(九大)、河野(奈良先端大)
細胞増殖・分化・死
西田(京大)、長田(阪大)、米原(京大)、後藤(東大)、岡田(阪大)、宮園(東大)
細胞内輸送とオルガネラ
中野(東大/理研)、藤木(九大)、吉森(遺伝研)、大野(金沢大)、清野(神大)、三原(九大)
テクニカルセッション
平岡(通総研)、松田(阪大)、宮脇(理研)、楠見(名大)

 各分野の委員長がプログラム委員として、毎年調整を行う。

日本細胞生物学会賛助会員