一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

第62回日本細胞生物学会ランチョンワークショップ「女性リーダーを増やすには」

開催日

2010年5月21日(金)

講師

大阪大学社会経済研究所    大竹 文雄 教授

司会

藤ノ木 政勝(獨協医科大学)

企画意図

研究分野での女性の社会進出は進んできているとはいえ,全体で見ればその割合は必ずしも高くはありません。特に何らかの安定的なポストに就いている女性の割合は,学生やポスドクとして在籍している女性の割合に比べて低く,女性研究者支援等の制度が実施されているにも関わらず期待される結果に結びついているとは言い難い状況です。この事はジェンダーフリーを目指す制度だけでは解決出来ない別の課題も含んでいるのでないでしょうか。そこで,今年のワークショップでは,大阪大学社会経済研究所の大竹文雄先生に労働経済学の立場から最近の研究成果を交えて,制度だけでは解決が容易ではない女性の社会進出の問題についてご講演頂きます。また後半は,委員会委員やフロアーも交え,女性研究者支援のあり方について議論してみたいと考えています。 生物学的もしくは発生学的には女性型が基本で,男性型はその派生です。従って男性にとってのメリットは男性のみで終わる可能性がありますが,女性にとってもメリットは男性にとってもメリットである可能性があります。言い換えれば,女性が活躍しやすい場はまた男性も活躍しやすいのではないでしょうか。是非多くの方に参加して頂きたくお願い申し上げます。

報告

大会3日目(5月21日)に講師に大阪大学社会経済研究所・大竹文雄教授をお招きして、「女性リーダーを増やすには」と題し、社会経済学の視点から見た女性リーダー育成の現状と課題についてご講演いただいた。現状の生物系においては大学院生で女性の占める割合は決して少ない訳ではないにもかかわらず、教授・准教授クラスになると格段に少なくなると言う結果が示された。時間的なラグが存在する為に一概にそのまま比較する事が正しいかどうかは議論の余地はあるが、大学院生での女性の割合に対して助教に占める女性の割合もやはり大きく低くなる事を考えれば女性に対して狭き門である事は間違いないだろうと感じた。ではその解消のための処方としては、経済学的には競争の促進があるという。男女間で能力の差がなければ、意識して女性を排除する事は意識して能力の低い男性を採用している事と表裏の関係であり、それは女性を採用した場合と比べて同一の成果を出すためのコストが高くなる事を意味する。当然コストパフォーマンスが悪ければ競争には勝てなくなるはずなので、競争が激しくなればなるほど能力の有無が問題であり性別は問題でなくなるはずであると言う事になる。研究機関に当てはめれば民間ならより国公立の機関よりもコストには敏感なはずであるが、私立大学だからといって女性の割合が多いとは限らない。もちろん現状では競争だけで解決出来るほど単純な話ではなく、女性に対する諸々の不利益がなくなって初めて競争の要因を考える事が成立する訳であり、現状においてはまず何よりも学会や研究者社会は女性に対する諸々の不利益をなくす不断の努力を行わなければならない事はいうまでもない。また女性研究者でラボ主催者クラスが少ない理由として子育てなどの社会的要因の他に、そもそも女性はラボ主催者になろうという意識が低いと言う少数意見のあるアンケート結果も紹介された。つまり生物学的性差に起因してラボ主催者に女性はなろうとしないのであると言う事であり、この点について「管理職(研究分野ではラボ主催者に相当)に就きたい=競争を好む」という作業仮説での男女差に関する競争の嗜好性に関する多くの研究結果をご紹介になった。研究によって違いがあり、男性の方が女性より競争を好むと言う結果を論じる研究もあるし、環境に依存して女性も競争を好む時があるという結果を論じる研究もあったが、結論としては生物学的性差のみに起因しているのではなく文化的要因との複合の結果であり、一律に男性は競争を好み、一方女性は競争を好まないと言えないと示めされた。

結局の所、女性リーダーを増やすための画期的な処方箋はない。しかしながら一時的には男性排除のように見えるかもしれないが、女性研究者を増やすためにある一定割合の縛りを設ける事は有効であり、またその必要があるだろうと思われ、そしてその施策は経済学的にも有効な選択肢の一つであると示された。さらにそれ以上に、繰り返しにはなるが女性に対する諸々の不利益をなくす不断の努力を行う事が必要である事はいうまでもない。私事ではあるが、6年ほど前に一人目の子供を授かったのを契機に早く帰宅する事を意識し始め、基本的に9時5時で研究をすると言う事を自分の課題とした。ワークライフバランスと言えばかっこの良い感じがするが、実際は子供をお風呂に入れるにあたって特に乳児期には妻一人では難しかったためである。初めはかなり大変であったが試行錯誤の末、今ではほぼ9時5時で研究をするという事が出来るようになってきた。もちろん実験によっては9時5時では終わらないものもあるし講義・実習があればまず無理であるが、それでも何とか講義・実習のない一年の大半は9時5時を維持している。また何とか毎年論文を出す事も出来ており、成せば成る様である。研究という仕事は、時間と成果が相関しない仕事である。と言う事は、多様な働き方が出来るという事であり、働きの如何は結果で判断される。結果が出さえすれば多様な働き方ができる、つまりは能力があればよいと言う働き方にもかかわらず女性の進出・就業が進まないとすれば、それは「差別」があると言われても仕方がないと男性研究者は受け止めるべきかもしれない。
文責:藤ノ木政勝(獨協医科大学)

ワークショップアンケート結果

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