一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

「海外研究室だより」Vol.9 医学、医療の未来にポジティブな影響を与える

浦野 文彦 (マサチューセッツ大学医学部)

・特定領域研究「タンパク質の社会」ニュースレターから転載(2012-02-29掲載)

みなさんお元気ですか?マサチューセッツ大学医学部の、浦野文彦です。こちらで研究室を始めて、10年目に入りました。小胞体疾患の概念の確立と、そのような疾患の診断法、治療法を開発しています。遺伝病であるWolfram syndromeや、糖尿尿、神経変性疾患、自己免疫疾患をターゲットにしています。素晴らしい仲間に囲まれ、 研究室から、30本以上の論文を生み出し、5人の博士課程の大学院生を卒業させ、世界中で年間100回以上の講演をする機会に恵まれました。素晴らしい経験をしています。現在のメンバーは10人、みんな素晴らしい研究者です。これまでの10年を振り返り、研究室主宰者として学んだ事を、みなさんとシェアしたいと思います。よろしくお願いします、Let’s get started!

1 Golden Ruleを死守する
アメリカにはGolden ruleというのが2つあります。 僕は、このgolden ruleを守るように全力を尽くしています。1つ目は、”Do unto others as you would have them do unto you.”です。僕は、このgolden ruleを守るように全力を尽くしています。最初の、他の人達を自分がもてなしてもらいたいように、もてなす。つまり、相手の気持ちを考え、思いやりのある行動をとるということには、 最も注意しています。もちろん、完璧で無い事もあります、それでも一生懸命、この原則を守っています。研究室のメンバー、一人一人の事を考え、それぞれのためになるように行動します。秘書の方、グラントの会計をして下さる方、研究室の試薬を作って下さる方、掃除をしてくれるおじさんたち、みんなに感謝の意をあらわし続けます。今でも病院長を勤める母が、臨床研修を始める僕にこう言いました。病院で一番偉いのは医師ではない。掃除をしたり、警備をしたりしている人達、あまり感謝をされないけれども、黙々と仕事をしている裏方の人達が偉いのだ、敬意を現しなさい。
2つめは、”He who holds the gold makes the rules.” つまり、お金です。お金は極めて重要です。アメリカの研究室では、研究室、大学にお金を持ってこれる教授を求めています。お金を持っている教授達は上を向いて歩き、発言権が強く、自分の思った研究がやりやすい状況を作れるのです。ですから、様々な手を使って、研究室に研究費が流れ込んでくる状況を作っています。そのためには、様々な努力が必要です。これは、次のポイントと密接に関連しています。

2 Tipping pointが訪れるまで、決して諦めない。
自分の考え、理念が、それぞれの研究者にはあると思います。みなさん、 その考えを信じて、毎日研究をしているでしょう。それでは、十分ではないのです。他の研究者、研究費を与えてくれる財団、患者さんとその家族、一般の人々に、自分の考えを、広く理解してもらう必要があります。そのために、ソリッドな研究成果を発表し、Ideaをreview articleで広め、webを整備し、 講演をし、会合に出、あらゆる機会に自分の考えを広めていく必要があります。決してあきらめてはいけません、tipping point(臨界点)に達すると、急に人々があなたの考えに賛同するようになり、movementが起きます。決して諦めない事です。これは、次のポイントに関連しています。

3 プレゼンテーションに命をかける
研究内容を発表する機会は、あなたにとって、最大のチャンスです。ここで、出来る限り多くの人にあなたの考えを理解してもらい、賛同してもらう必要があります。そのためには、できる限りスライドの数を減らし、大きな文字ときれいなイメージを組み合わせて、分かりやすい発表をする必要があります。また、時間を一杯に使ってはいけません。必ず、質疑応答の時間を残し、そのときに質問者からの質問に、丁寧に一生懸命答える。あなたは、セールスマンです。

4 メンターを持つ
研究室を運営していくと、ほぼ2、3ヶ月おきに、非常に難しい問題に直面します。私は、研究室を始めて10年目ですから、50回以上難しい問題に出会い、なんとか解決法を見つけて来ました。これは、一人では無理です。経験を積んだ成功者からアドバイスをもらう必要があります。親切に、自分の経験を共有し、あなたを正しい方向に導いてくれるメンターが必要
です。私には、幸運にも、Dr. Aldo Rossini(現在は第一線からは退き、Harvard Medical SchoolのVisiting Professorになっています)という、メンターに出会う事ができました。彼との、月2回の話し合いが、僕の人生に素晴らしいポジティブな影響を与えてくれた事にいつも感謝しています。今でも、月に一度は、話し合っています。

5 患者さんの気持ちをラボメンバーに伝える
私達の研究室は、小胞体病という概念を確立し、それに相当する疾患の診断法、治療法を開発する事をミッションとしています。遺伝病の研究をし、患者さんの登録制度、クリニックを整備している関係で、多くの患者さん、患者さんの家族とお会いします。彼らの抱えている臨床的な問題、患者達の悲しみ、家族の悲しみを、機会をつかんでは、ラボメンバーに話すようにしています。自分達の研究が、いかに多くの人々を救う事になるか、みんなが理解し、一致団結して研究を進める事は、なににも増して、重要ではないでしょうか?

6 幸運に感謝する。
私が研究を続けられる事、素晴らしいメンバーに恵まれている事、論文を発表し、講演をする機会が訪れている事、すべては、幸運だからだと思っています。この幸運に、いつも心から感謝しています。本当にありがとう。必ず、新しい治療法、診断法を開発し、多くの患者さんを救います。

プロフィール
浦野文彦:1994年、慶応義塾大学医学部卒業、同年医師免許取得。慶応大学病院、国立東京医療センター、川崎市立川崎病院、平塚市民病院で臨床病理学の研修を行う。その後、慶応大学医学部病理学教室にて小児病理学、分子病理学を学ぶ(秦順一教授指導、元成育医療センター総長)。1998年からニューヨーク大学医学部分子病理部門研究員(David Ron教授)、2002年よりマサチューセッツ大学医学部助教授,2008年より准教授、2011年永久教授権獲得、2011年、American Society for Clinical Investigation会員に推挙される。小胞体機能異常が、 糖尿病、神経変性疾患、自己免疫疾患に与える役割を研究しています。また、小胞体病の患者、家族を支えるためのNPO、クリニックを設立、運営しています。

(2012-02-29)

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