一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

「海外研究室だより」Vol.2 「Midwest heat shock response and molecular chaperone meeting」参加報告 & ミニラボ紹介Northwestern大学Andreas Matouschek研究室

伊野部 智由 (Northwestern University)

・特定領域研究「タンパク質の社会学」ニュースレターから転載(2008-03-15掲載)

2008年1月19日にNorthwestern大学のEvanstonキャンパスで第13回Midwest heat shock response and molecular chaperone meetingが開かれた。私は現在少し熱ショック応答やシャペロンとは離れた研究をしているが、渡米する前は主にシャペロニンの生物物理的な研究をやっていたため、毎年参加して純粋に講演を楽しんで聴いている。また会場は私のラボから歩いて1,2分で、参加費も無料であるため、気楽に参加することができ、今年で四回目の参加となる。
数年前の松本さん(現・理研)の報告でも書かれているが、このMeetingは以前、当時Chicago大にいたSusan LindquistとNorthwestern大のRick Morimotoが共催していたそうだ。Lindquistがラボを移動してからはMorimoto研が毎年主催してNorthwestern大で行われている。Meetingの規模は以前から大きくはなかったが、以前と変わらず和気藹々とした環境で盛んに議論が繰り広げられている。
もう一つのこのMeetingの特徴は開催日が必ず冷えるということである。ここ数年Opening remarksでRickはこのことを話題にしており、今年はご丁寧にもAbstract集の巻末に過去の開催日の気温が掲載されていた。この記録によれば最低気温の平均は-10℃、平均気温でも平均-5℃であるそうだ。一番寒い年は-20℃だったらしい。開催日はHeat shockならぬCold shock dayなのである。この"Cold shock"のせいか筆者は風邪を引いてしまい、鼻をすすりつつ会議に参加した。
日本人の参加者は5名ほど。私にとって大学院時代から仲良くさせて頂いているWisconsin大Craig研の日暮さんとお互いの近況を報告しあうのもこの会議の楽しみの一つとなっている。

 Meetingはまず「Cellular Stress Response Networks」というセッションから始まった。
 E. Craig研のC. Sahi (Wisconsin大)は出芽酵母の細胞質中の13種類のJ蛋白質の解析を行った結果を報告した。Hsp70の働きにはJ蛋白質が必須であるが、J蛋白質は何種類も存在し、それぞれ細胞内の濃度や分布機能が異なっている。唯一の共通点はどれもJドメインというドメインを持ち、このドメインがHsp70のATP活性を制御している点である。今回の発表では、もっとも多く存在するJ蛋白質であるYdj1の欠損株は他の多くのJ蛋白質の過剰発現により救出されたが、Sis1および Jjj1, Jjj3, Cwc23の欠損株は他のJ蛋白質を過剰発現しても救出されることはなかったと報告した。このことはHsp70の多くの機能はJ蛋白質によるATP活性の制御だけを必要としているが、いくつかのHsp70の機能には特定のJ蛋白質が必要になってくることを示している。Hsp70の多彩な機能を説明するモデルとして大変興味深いものであると感じた。
 R. Morimoto研のS. Westerheide (Northwestern大)はSIRT1が熱ショック転写因子HSF1の転写活性の制御をすると報告した。HSF1は多くの熱ショック蛋白質の発現誘導を制御する主要な転写因子である。HSF1のいくつかのリシン残基はアセチル化されることが知られているが、今回彼女はSIRT1が脱アセチル化を行うことによりHSF1の転写活性を制御していると発表した。またアセチル化を受けさらに種間で保存性の高い80番目のリシンは立体構造上DNA結合面に面し、このK80のアセチル化はHSF1のDNA結合を弱めると報告していた。これらの結果をまとめるとSIRT1はHSF1を脱アセチル状態に留めることによりHSF1を活性化しDNAへの結合ができる状態にしておくことができると考えることができる。
 U. Jacob研のL. Leichert (Michigan大)は(0x)ICAT法というチオール基の定量的検量法をについて発表を行った。この方法では大量の蛋白質サンプルのシステインの酸化的修飾の検量を一度に行うことができる。またこの方法を大腸菌内の蛋白質について応用し、その酸化状態を定量した結果も報告した。H2O2やNaOCl, NOストレスにおいて酸化される蛋白質群はそれぞれの方法により異なった特異的なグループに分けることができ、そのオーバーラップは少なかった。さらに詳細な解析を現在行っているところらしいが、単にひとくくりに酸化ストレスを語ることはできないようだ。
 R. Morimoto研のV. Prahlad (Northwestern大)は線虫の高次レベルでの熱ショック応答について発表した。細胞内での熱ショック応答機構は詳しくわかってきているが、さらに高次の熱ショック応答機構はまだよくわかっていない。Prahladらは線虫の神経ネットワークによる熱ショック応答機構を調べた結果を報告していた。

 次のセッションは「Pathogenesis」というタイトルであった。
 S. Liebman研のB. Patel (Illinoi大Chicago校)らは出芽酵母中で新たなプリオン性蛋白質を発見したと報告した。酵母ではすでにいくつかのプリオン性蛋白質が見つかっているが、今回PatelらはCys8という蛋白質を酵母中で過剰発現することによりメンデル則に従わない遺伝現象[OCT+]が見られるようになることを発見した。さらに[OCT+]はHsp104に依存することから他のプリオン蛋白質と同様のメカニズムでアミロイド繊維を形成するものと考えられる。
 M. Fisher研のH. Katayama (Kansas Medical Center大)らはGroELを足場として用いanthrax toxin poreの構造解析を行った結果を報告した。もっとも有名な分子シャペロンであるGroELは様々な基質蛋白質を認識することが知られている。彼らの扱うanthrax toxin poreも膜挿入可能な状態を保持したままGroELに結合することができる。このことを利用して凝集体を引き起こしやすいanthrax toxin poreの電子顕微鏡による単粒子解析をGroEL存在下で行った。その結果、anthrax toxin poreの構造はキノコ状の形をしていることがわかった。GroELはナノマシーンとして様々な分野に応用されてきているが、他の蛋白質の構造解析にも利用することができることを示したおもしろい発表であった。
 P. Clark研のM. Junker (Notre Dame大)らはオートトランスポーター蛋白質のフォールディングと分泌には深い関係があることを報告した。自発的に膜透過して分泌されるオートトランスポーター蛋白質の分泌の最終段階はC末端からN末端の順に進む外膜の透過である。Junkerらはオートトランスポーターファミリーの配列を調べ、オートトランスポーター蛋白質の97%以上がベータへリックス構造をとることが明らかにした。さらに生物物理的な研究からこのベータへリックスドメインのフォールディング速度は非常に遅いものの、このドメインのC末端側は非常に安定な構造をとり、平衡化の変性剤による変性実験では3状態転移をとることが分かった。この結果をもとにして、先に外膜を透過したC末端側ドメインが安定した構造をまず形成し、これをテンプレートとして残りの部分が天然構造を形成するというオートトランスポートのモデルを提唱していた。

 Plenary TalkとしてL. Gierasch (Massachusetts大)が蛍光ラベル(FlAsH)したモデル蛋白質(CRABP)を用い、細胞内の蛋白質のフォールディングを観察した彼女たちの最近の成果について報告した。CRABPの細胞内と試験管内での熱力学的安定性の違いの話に始まり、CRABP変異体やハンチントン病の原因となるhuntingtinのエクソン1を付加したCRABPの細胞内での凝集体形成メカニズム、osmolyteによるその凝集メカニズムの影響などについて興味深い話が聞けた。彼女によれば試験管内の環境と比べ大きく異なっている細胞内の環境は、高い生体高分子の濃度(クラウディング効果)、高い粘度による拡散速度、そしてシャペロンなどの他の蛋白質との弱く過渡的で特異的な相互作用などであるとしていた。

 ポスターセッション後の最初のセッションは「Neurodegeneration」に関する発表であった。
 H. Paulson研のB. Winborn (Michigan大)は神経変性疾患の病原蛋白質としても知られる脱ユビキチン化酵素Ataxin-3が新たなタイプのユビキチン鎖校正活性を持つことを報告した。ポリユビキチン鎖は各ユビキチンのC末端とリンクするリシン残基の位置によってその役割が変わってくる。Ataxin-3はK48とK63リンクのユビキチン鎖どちらも同等に結合するが、K63リンクのユビキチン鎖をより強く分離分解することが分かった。更にK48とK63の入り交じったユビキチン鎖には更に強い活性を示し、K63リンクを開裂するそうだ。このAtaxin-3による脱ユビキチン化が基質蛋白質の運命をどう左右するのか興味深いところである。
 S. Meredith研のI. Qahwash (Chicago大)はアルツハイマー病患者の脳から取り出したアミロイドを元にしたAb40線維の固体NMRによる構造解析の結果を報告した。数人の患者からのアミロイドをもとにしたAb40線維はどれもほぼ同じ線幅の狭いスペクトルを示し、幅広いスペクトルを示す人工合成した繊維とは異なっていた。このことはアルツハイマー病のアミロイド線維はこれまでに知られた構造とは異なるより均質な構造をもつということを示している。具体的にどのような構造をしているのか更に詳しい解析が待たれる。

 最後のセッションは「Chaperone Structure and Function」であった。
 J. Bardwell研のT. Tapley (Michigan大)は酸性ストレスに対処する大腸菌のペリプラズム中の分子シャペロンHdeAの作用機構について報告した。多くの蛋白質は酸性pHから中性に戻した時に凝集体を形成するが、酸性pH条件であらかじめHdeAを加えておくと、中性に戻したとき効率的に巻き戻り活性を回復した。またHdeA自身の構造変化は中性から酸性にpHを変化させた時には素早く構造変化するが、酸性から中性にpHを変化させたときの構造変化は遅かった。HdeAは酸性ストレスを受けた時に素早く基質蛋白質に結合し、中性条件に戻り凝集体の危険があるときには、HdeA自身のゆっくりとした構造変化に伴い徐々に基質蛋白質をリリースし凝集体の形成を押さえているという合理的なモデルを提唱していた。

 ほかにも面白そうな発表があったのだが、筆者の理解が十分でなかったため申し訳ないが割愛させて頂いた。一日だけのMeetingであるがいろいろな話を聞けて大変濃密な時間が過ごせたと思う。このMeetingでは実際に実験を行っている若手の発表がほとんどで、同じ若手として刺激を受けるとともにポジティブな気持ちになることができた。来年も是非参加したいものだ。


最後になるが私の所属するラボの紹介も簡単にさせて頂く。私のボスのAndreas MatouschekはRick Morimotoと同じ学部に属す教授である。元々彼は蛋白質のフォールディングの基礎研究で画期的な成果をあげ、その後生体内でのフォールディングの研究、蛋白質の膜透過の研究を行ったあと、現在はATP依存性プロテアソーム、特にプロテアソームによるアンフォールディング機構の研究を行っている。以前はMorimoto研と合同でラボミーティングも行っており、Midwest heat shock response and molecular chaperone meetingにも今までに何度もオーガナイザーとして参加している。その縁で(?)私も昨年はこの会議で口頭発表を行わせてもらった。彼の奥さんも同じ学部の教授で、エンドサイトーシスにおけるユビキチン化の研究などで名の知れたLinda Hickeである。6歳になる娘さんもよくラボにやってきて、なにやら実験(?)をしており将来は研究者になるに違いない。
 ラボの規模はそれほど大きくなく、Andreasの他、ラボコーディネィター1人、ポスドク2人、大学院生2人、学部生2人の総勢8人という少数精鋭(?)で研究を行っている。以前はミトコンドリアの膜透過の研究が主流であったが、現在は誰も行っていない。現在は全員がプロテアソームによる蛋白質の分解に関係する研究をしている。特にプロテアソームによる分解の初期過程とプロテアソームによる限定分解に関しての研究に力を入れている。その研究手法は多岐にわたり、私は生物物理、生化学的手法を主に使った研究を行っているが、細胞生物学やバイオインフォマティックス的な手法を用いた研究を行っている者もいる。他のラボとの交流が盛んであるため、たとえラボに実験器具やノウハウがなくても、気軽に最寄りのラボの器具を使わせてもらったり教えてもらったりすることができ、幅広い研究を行うことができる。
 Andreasは研究面では厳しいところもあるが、非常に面倒見のいい良い人で、研究に関することだけでなく私生活においても何度も彼に助けられた。またAndreasはかなりの日本通らしく、彼のオフィスは日本風に飾り付けられている。浮世絵やミニチュアの枯山水庭園、そして百本近くはある日本酒のコレクションなどである。たまに日本酒を分けてもらうこともある。
ラボの同僚たちや共同利用施設のテクニシャンたち、そして学部の事務の人たちも非常にいい人たちで研究がスムーズに進むようにいつもサポートしてくれる。研究をする上でこれ以上良い環境はないのではないかと思えてくる。
 いいボスと理解のある同僚たち、温かくアメリカに送り出してくれた日本の上司や仲間たち、そして毎日私に元気を与えてくれる妻と子供たち、これらの人たちの支えがあってこそいい留学ができたと思う。ここで礼を述べたい。

写真1. Northwestern大学Evanstonキャンパスの正門にあたるThe Archと筆者

写真2. 会場となったAllen centerと生化学・分子生物学・細胞生物学部の建物

写真3. Matouschek研のメンバー
(2008-03-15)

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