一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

「海外研究室だより」Vol.17 Ira Mellman研究室(Yale School of Medicine, Genentech)

中村 徳弘 (Ira Mellman研究室(Yale School of Medicine, Genentech))

・特定領域研究「メンブレントラフィック」ニュースレターから転載

 2005年の夏から Ira Mellmanの研究室に所属しています。研究室はYale School of MedicineのDepartment of Cell Biologyにあり、Graham Warrenと共同でラボを運営しています。PIが二人いるラボは珍しく、性格がずいぶん違うように見えるIraとGrahamの二人のもとで研究できたことと、二人の研究者の日常を見ることが出来たことは幸運であったと思います。エールで2年ほど経ったところで、IraはサンフランシスコのGenentechに、GrahamはウイーンのMax Perutz Laboratoriesに移転することになりました。サンフランシスコに移って半年が経ちましたが、この間、また現在もIraは多忙な毎日を送り、ラボはセットアップに始まり様々なことが急速に変化しましたが、軌道に乗りつつあります。これはもう一つの貴重な経験であったと思っており、これまで感じたことや思ったことなどを書けたらと思います。

Yale cell biology

 以前の号でもエールが紹介されていますので、大学は概略だけ紹介します。エール大学は東海岸コネチカット州のニューヘブンにあります。ニューヨークとボストンのほぼ中間でどちらからも車で1,2時間ほどです。人口10万人ほどで比較的こじんまりとした街ですが、ダウンタウンにエールのカレッジやドミトリーが立ち並んでいて、街全体をゴシック調のすばらしい景観にしています。夕方になると毎日のようにschool of musicによる演奏会やschool of drama主催の演劇が開かれ、繁華街もエールの学生でにぎわいます。 天気の良い週末には多くの観光客が訪れ、学生ボランティアがガイドするキャンパスツアーが行われます。

写真1、2:ダウンタウンにあるドミトリー(左)とカレッジ(右)

写真3:大学図書館。蔵書数はアメリカの大学で2番目とのこと。

写真4: 昨年、ニューヘブンでインディージョーンズ4の撮影が行われ、ダウンタウンが1950年代に戻りました。

カレッジキャンパスから少し離れて、15分ほど歩いたところに医学部と病院があります。 Cell biology部門は、30年ほど前にGeorge Paladeの主導で解剖学部門が改組されて出来たと聞いています。現在のファカルティはIra MellmanとGraham Warrenのほか、James Jamieson、Pietro De Camilli、Novick夫妻をはじめ、メンブレントラフィックの研究者が大部分を占めています。Microbial pathogenesisやimmunology部門の研究者がcell biologyを兼任し、 メンブレントラフィックに関係する分野が幅広くなるように招かれているようです。ファカルティがホストの外部研究者セミナーが月に二三度、departmentのポスドクと大学院生による研究報告セミナーが毎週行われ、メンブレントラフィックのセミナー漬けです。2000年からIraがdepartment chairで、department内の電顕ラボと光顕ラボ、 医学部に附置されたDNA、タンパク質解析部門と動物飼育室が研究をサポートしています。

Mellarren lab

研究室は、Ira MellmanとGraham Warrenの二人のPIによって運営されていて、二人の名前を合わせて Mellarrenラボと呼ばれています。 35人(PI2人、秘書2人、ポスドク14人 、大学院生 11人 、ラボテック6人 )が在籍し、スペース、試薬、実験機器は全て共有、ラボセミナーも合同です。新しく入った人は研究上のPIに関係なく空いているベンチと机が割り当てられます。2人のPIが共同で運営するラボは、エールの中では恐らくここだけではないかとおもいます。ラボはいつもいっぱいで、小さな規格のベンチと机がぎっしりと入っていますが、新しい大学院生には机が割り当てられないこともあります。
週一度のラボセミナーではGrahamが必ず一番前の真ん中の席に座って厳しいコメントや質問を連発し、セミナーの演者はみなかなりプレッシャーを受けていました。Grahamがどんどんコメントして行く一方、Iraは演者のフォローに回ることが多いように思います。小グループミーティングでもあまりプレッシャーや追求していくようなコメントは少なく、本人が自発的に進むよう誘導するコメントが多いと思います。普段の生活では、Grahamはオフィスのコンピューターの前で静かに仕事をしていることが多く、Iraは会議による外出が頻繁で、オフィスにいる時も常に誰かとミーティングをしていて、セミナーの時とは対称的です。Iraはバランスを重視、Grahamは機関車的でPIや研究者としてずいぶんタイプの違う二人のように思いました。どういう経緯でラボを共同運営することにしたのかちょっと不思議でしたが、complementaryなのかもしれません。研究プロジェクトは別々で共同のプロジェクトはありませんでした。ラボのグループは大きく分けて4つ、抗原提示、極性輸送、ゴルジ分裂、ゴルジ構造があり、私は樹状細胞グループに入っています。

写真5:ラボの集合写真。真ん中がIraとGraham。

写真6: Iraのオフィスにて。緊張気味です。

写真7:ラボの一角。込み過ぎ?

樹状細胞とMDCK

 Iraはcell biologistで分子機能にこだわりながら進めて行くことは少ないように思います。分子レベルに掘り下げるのは自然な流れだけれど、自分は他との境界線で面白そうなところからやるのも方法だろうと何かの折に話していました。Iraは樹状細胞による免疫誘導とMDCK細胞の極性輸送を長く続けていて、どちらもエンドサイトーシスとリサイクリングや分泌が細胞の機能に重要な役割を持ちます。樹状細胞は獲得性免疫反応を誘導する抗原提示細胞ですが、MDCKに比べあまり知られていない(かもしれません)ので、簡単に紹介します。
普段は皮下などの末梢組織に存在して*、盛んにエンドサイトーシスをしている樹状の細胞です(念のため、神経細胞ではありません)。皮膚や上皮から侵入した病原体を細胞膜やエンドソームのレセプターで感知すると、それまで盛んに行っていたエンドサイトーシスを止めて、取り込んだ病原体分子を保持したままリンパ節へ移動します。その後、リソソームで分解して作った抗原を細胞膜に輸送して細胞外に提示し、Tリンパ球を活性化します。樹状細胞は抗原と会ったことのないナイーブT細胞を強力に活性化して、抗原特異的な免疫反応を誘導する細胞です。リコンビナントタンパク質で抗体を作る際にも樹状細胞が働いてくれていますし、ガン抗原と共培養して体内に戻すワクチン療法にも使われます。脾臓や血液から分離した細胞、骨髄造血幹細胞をin vitroで分化させた細胞と、最近樹立された細胞株を実験に合わせて使っています。 実際実験するとエンドサイトーシス能は強烈で、蛍光色素やビーズと培養すると短時間のうちに細胞内は色素でピッカピカ、ビーズでいっぱいになって驚きます。毎週、マウスの脾臓と大腿骨の解剖とヒトの献血液の細胞分離がラボのルーチンワークになっています。
(*通常リンパに存在して末梢組織には存在しないサブセットもありますが省略しました)

From endosomes to genentech

  JCBに短いエッセイが出ていましたが、Ira Mellmanは昨年の4月からサンフランシスコに移りGenentechとエールを兼任しています。ほぼ同時期にGrahamはウイーンのMax Perutz Laboratoriesに移転になりました。Genentechは、30年ほど前にリコンビナントのインシュリンを薬として供給するためにUCSFの研究者が設立した組織で、現在は癌やリュウマチを抑える組み換え抗体と増殖因子による収益で運営されています。サンフランシスコ空港のすぐそばの湾に面したところにメインキャンパスがあります。サンフランシスコダウンタウンとスタンフォードがあるパロアルトのちょうど中間で、車で2、30分ほどです。研究ディレクターはほとんどが他の機関から雇用された研究者で、スタンフォードやUCSFのファカルティが多く、その他国内各地から移転して来ています。メンブレントラフィックの分野では、Richard Scheller、rabがprimary ciliumの形成に関わることを示したPeter Jacksonが所属しています。外部から移転してきたディレクター、Genentechで独立した研究者、リサーチアソシエイト、リサーチアシスタントと、約100人のポスドクやスタンフォードやUCSFの大学院生が研究に携わっています。Protein chemistry, biochemistry, cell biology, immunology, oncology, bioinformatics等の部門からなり、 タンパク質やDNA解析、細胞培養や動物飼育の施設はよく整備されていて、ルーチンな実験はかなりオーダーが可能です。Iraはoncology部門のディレクターでラボの他、たくさんの研究者の統括に携わり非常に多忙な毎日を送っています。 移転の際は半年前からIraが先に移りラボマネージャーと準備を進めていました。MTAを始めいろいろ制約があったはずですが、そういうことは一切表に出すこともなく(空気が伝わってくることはありますが)、ポスドクと大学院生はこれまで通り研究を続けています。当初ラボは空っぽで正直びっくりしましたが、個人裁量の範囲を広げてくれ、いろいろな融通もしてもらい、研究は軌道に乗ってきていると思います。新しいメンバーも加わり、新しい土地と環境でメンバーはみんな次の研究の進展を期待していると思います。

写真8:Genentech研究所入り口

写真9:AT&Tパーク(イチローがランニングホームランしたところ)にジャイアンツ戦を見に行きました。

つたない文章で、これから留学を考えている方にはあまり参考にならなかったかもしれません。私自身、今も進行中でよく消化していないことがたくさんありますが、 こちらに来てからのことを考える良い機会になりました。近況の報告する機会をいただいたこととあわせて、お礼を申し上げます。

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Norihiro Nakamura
Genentech Research Oncology
MS231A, 1DNA way
South San Fransisco, CA 94065
650-467-4631
nakamura.norihiro@gene.com


(2013-08-29)

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