一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

「海外研究室だより」Vol.15 虫をさがしてた~New Jersey United~(Rutgers 大学 Barth Grant研究室)

佐藤 健 (理化学研究所中野生体膜研究室:現群馬大学生体調節研究所細胞構造分野教授)

・特定領域研究「メンブレントラフィック」ニュースレターから転載

ラトガース大学(ニュージャージー州立大学)はNew Yorkから南に60kmほどのところにあるNew Brunswickという街にあります.この大学は1766年に創設され,全米でも4位ぐらいの学生数を誇るマンモス大学で,明治維新の頃にアメリカではじめて日本人を受け入れた大学だそうです(図1).New BrunswickはNew Yorkからわずか1時間という距離にもかかわらず,鹿やウサギ,あらいぐま,スカンクなども住んでいる森に囲まれたのどかな大学街です.

私が所属しているBarth Grant研究室は2002年の夏にできたばかりの研究室で,Barth Grant博士(以下Barth)は私よりも1つ年上のアシスタントプロフェッサーです.はじめてこの研究室を訪問した頃は彼とテクニシャン1人だけしかおらず,研究室の中がガラーンとしており,ここに来て本当に大丈夫なのかと思いましたが,Barthの親切な人柄と研究の方向性がとても良く一致していたこと,はじめて訪問した際の帰りの車中でBarthがTrust me!といって熱心に勧誘してくれたことから,この研究室に参加することにしました.実際,Barthは頻繁に研究室の中を行き来し,線虫研究のノウハウを丁寧に教えてくれ,線虫未経験だった私にとっては大変いい勉強になっています.参加した当時は私と佐藤美由紀以外には大学院生1人とテクニシャン1人しかいませんでしたが,今ではポスドク1人,大学院生1人,テクニシャンや大学院生も加わり,徐々に規模が大きくなってきています(図2).

さてGrant研の研究内容についてですが,線虫C. elegansをモデル生物として用いて,主にエンドサイトーシスの研究を行なっています.C. elegansは世代時間が約3日で,野生型の雌雄同体は1匹あたり約300個の卵を産みます.スペースシャトルが爆発しても線虫は生きていたというぐらいしぶとい生き物で,一月ぐらいほったらかしにしても,ブリーチと水酸化ナトリウムの混合液に浸して親虫を溶かしても卵は無傷でまた産まれてきます.全細胞数は約1000個と少ないですが,神経,筋肉,腸,生殖系などは備わっています.また,全ゲノム配列がすでに決定されており,遺伝学的解析,RNAiによる逆遺伝学的解析が容易で,さらに体が透明なため,生きたまま発生や細胞系譜,GFPなどを用いたタンパク質の解析が行えるなど多くの利点が挙げられます. Barthはポスドク時代に,線虫の腸から体腔側(線虫では偽体腔と呼ばれる)に分泌され,その後,偽体腔から卵細胞へと輸送される卵黄タンパク質YP170に注目し,このタンパク質の卵細胞への輸送を追うことによってエンドサイトーシスの変異株が分離できないかと思い付きました.そこで,このタンパク質にGFPを結合し,腸で発現させたTransgenic wormを構築し,YP170-GFPが卵細胞によってエンドサイトーシスされず偽体腔に蓄積してしまう変異株,rme(Receptor-Mediated Endocytosis defective)の分離を試みました(図3).これまでに11相補性群に分類される変異株が分離されてきており,このうちrme-1はリサイクリングエンドソームではたらくEHドメインを持ったタンパク質,rme-2は卵細胞上で発現するYP170のレセプターでLDL-receptor様タンパク質,rme-8はエンドソームに局在するDnaJタンパク質をコードする遺伝子であることが次々と明らかとなってきています.興味深いことに,これらの遺伝子はその他の動物では保存されていますが,酵母には存在しません.このことから線虫をモデル生物として用いれば,酵母研究と動物研究の隙間を埋めるいい材料になるのではないかと思われます.現在,私はこのrme変異株のうち,2種について解析を進めており,エンドサイトーシスに関わる新たな因子が取れる事を期待しています.

私がこの研究室に参加した頃は,線虫で小胞輸送を主に研究している研究室はGrant研とアリゾナ大学のHanna Fares研ぐらいしかありませんでしたが,最近では徐々に小胞輸送に興味を持つ研究室も増えてきており,去年の線虫国際学会ではSchekman研のポスドクが私のポスターを見に訪れ,とても驚きました.今後,線虫を材料にした小胞輸送の研究がますます盛んになるのではないかと期待されます.Grant研の研究内容にご興味のある方はどうぞ研究室のホームページ(http://www.barthgrant.com/)を御覧ください.光る線虫のムービーなどが御覧いただけます.帰国しましたら,線虫を用いてメンブレントラフィックの解析を開始するつもりですので,皆様どうぞよろしくお願いいたします.最後に快く私を送りだしてくださった中野明彦先生にこの場を借りて,厚く御礼申し上げます.

図1 広大なキャンパス.
図2 研究室の仲間達.一番左にいるのがBarth Grant 博士.
図3 野生株とrme変異株の蛍光顕微鏡写真.野生株ではYP170-GFPが卵細胞によってエンドサイトーシスされ,卵細胞内に蓄積されるが(左図),rme変異株では卵細胞には取り込まれず,偽体腔に蓄積する(右図).
(2013-07-23)

海外研究室だより

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