一般社団法人
日本細胞生物学会Japan Society for Cell Biology

「海外研究室だより」Vol.13 The Morimoto Lab

松本 弦(Gen Matsumoto, Ph.D.)  (理化学研究所 脳科学総合研究センター 構造神経病理研究チーム)

・特定領域研究「タンパク質の一生」ニュースレターから転載【2002年8月掲載】

アメリカ中西部の大都市Chicagoから車で北へ30分ほどの閑静な大学町にMorimoto LabのあるNorthwestern大学はある。Northwestern大学は1851年に創立した歴史の深い大学で、昨年創立150周年を迎えた。Northwestern大学のある街、Evanstonは大学を中心とした大学町であり、町の名前もNorthwester大学の創始者John Evansの町という意味のEvans townが語源となっているらしい。
Northwestern大学のキャンパスはミシガン湖のほとりにあり、夏冬問わず湖沿いの遊歩道を、学生だけでなくかなり年輩の人達や、赤ちゃんをストローラーにのせたお母さんまでもがジョギングしている。夏には、大学のプライベートビーチがオープンし、きれいに整備された砂浜でみんな日光浴したり、湖水浴を楽しんでいる。ミシガン湖は日本の四国がすっぽり入ってしまう程大きいので、もちろん対岸は見えず、目の前には水平線が広がる。緯度的には、旭川とほぼ同じで、内陸とはいえすぐ近くに大きな水源があるため夏は多湿である。春と秋に相当する期間は非常に短く、すぐに夏から冬に変わってしまう。冬はミシガン湖からくる強い風で体感温度は-20℃にも達する。しかし、主な道路は完全に除雪され、不凍剤が惜しげも無くばらまかれるため、車は普通のタイヤで走ることができるし、建物中は必要以上に暑いので、冬の寒さを気にする機会は少ない。ラボの中は、文字通り24時間365日エアーコンディショニングされており、一年中同じ格好で実験ができる。
Morimoto研はキャンパスのなかでももっともミシガン湖に近い建物(Cook Hall)の3階にあり、リックのオフィスからはミシガン湖の水平線が一望できる。同じフロアーには5つのラボが入っているが、Morimoto研はフロアーの3分の1をしめている。ラボの構成は現在、ポスドク7人、大学院生7人、学部生7人とテクニシャン2人、リサーチコーディネーター1人という大規模なラボで、男女比はほぼ1:1である。さらには数ヶ月単位でくるVisiting scholarも年に数人やってきたりと、出入りが激しい。アメリカはもとより、イスラエル、中国、インド、ポルトガル、オランダ、カナダ、韓国、フィンランド、フランス、日本と国籍も様々な多国籍ラボである。リック自身は、日系3世のアメリカ人だが、genotypeは100%日本人で、仏教徒でもあるが、日本語はほとんど話せない。たまに私に電話がかかってくると「げんさん、でんわ、もしもし」と言ってつないでくれる。リックは気になった論文は全てコピーして、ポスドク、院生それぞれのテーマに合わせて配ってくれるのだが、その時には、「げんさん、あたま、へった」と意味不明な日本語とともに手渡してくれる。
彼は大学院の学長でもあるので、週の1/3はラボにいない。また、アメリカ国内はもとより海外主張も多いが、講演が終わるとその日のうちに飛行機があれば飛んで帰ってきて、ラボに顔をだす。基本的に、リックは時間があれば誰かしらと実験について、アイデアについて、サイエンスについてを立ち話をするような感じで話している。ラボ内は放射性同位体の管理区域になっているため、飲食は厳禁。そこで廊下にソファーとテーブルを置いてお茶飲み場としていて、そこはRick’s Cafeと呼ばれている。Rick’s Cafeでは、夕方になると、リックが希望者にエスプレッソマシーンでエスプレッソを入れてくれ、サイエンス談義や雑談が始まる。時には誰かと1対1で深刻に話している時もあれば、大勢でがやがやとやっている時もあるが、総じてみんな楽しそうである。英語の特徴もあってか、みんな対等に話していて、時にはリック自身が大学院生にからかわれていることもある。
Morimoto研は、ストレス応答の研究のパイオニアで、多くの知見を世に送り出してきた。数年前までは、主に培養細胞を使ったMolecular Biologyのラボだったはずなのだが、現在では線虫(C. elegans)の遺伝学のラボに様変わりしている。ポスドク、大学院生あわせて14人中、9人が線虫の系を使って研究しているばかりか、リック自身がなにやら線虫を育てていることからも、彼の線虫への力の入れようがわかる。みなストレス応答に関係した仕事をしているのだが、研究テーマ、手法はかなり多様である。毎週1回のラボミーティングでは、みんな周到な準備をつんで現在の研究の進展を話すのだが、人数が多いので、みんながなにをやっているのかをフォローしていくのは大変である。複雑な線虫の遺伝学の話をする人もあれば、生物物理的な話をする人もいて、実際、両極の人たちの共通点は同じラボにいるということくらいである。このラボミーティングの時は、発表者により全員分の朝食が用意されることが慣習になっている。はじめは、ベーグルに分厚くクリームチーズをぬって食べることに圧倒されていたのだが、いつの間にか自分も同じようにして食べていたのには我ながら驚いた。ラボミーティングの他に、もう少しテーマが近い人達だけで行う、サブグループミーティングもある。サブグループは、線虫グループ、転写制御グループ、シグナル伝達グループ、フォールディンググループ、培養細胞グループとなっている。テーマが重なっている場合は、複数のグループに所属することになる。開催日程も毎週のところもあれば、隔週、毎月とまちまちで、ミーティングの多い週になると、一週間のうち4回もミーティングがあるなんて事にもなる。実験はいつするのかという感じだが、リック曰く、「サイエンスとはquestionと実験のデザインを考えることで、あとの実験そのものはただやるだけ。誰がやっても同じでなければ、サイエンスではない。」彼には、その「やるだけ」が大変なんだという理屈は通用しない。
ラボの誰かの誕生日には、ケーキ&アイスクリームパーティーが開かれる。今年のリックの50歳の誕生日には、ラボをあげてサプライズパーティーを企画した。ラボのメンバーだけでなく学部の教授たちも集まって、ケーキ&アイスパーティーとなった。世界各国のMorimoto研に関係した人達からお祝いのメッセージカードを送ってもらい、一冊の本にまとめてプレゼントした。リックはMeselsonからもメッセージが寄せられたことにいたく驚いているようだった。彼が読み上げてくれたMeselsonのメッセージには、「ベンチをあけておくから、いつでも帰っておいで。」というフレーズがあり、その内容よりもMeselsonがまだ現役であることの方に驚いた。ラボの我々からのプレゼントとして、全員でリックにYMCAの曲にあわせて歌を贈った。この原稿の最後に、その歌詞を紹介するが、大学院生が考えて作った替え歌は、ジョークまじりの楽しいものであったが、私が歌うにはちょっとレベルが高すぎであった。



R.I.C.K.

Hey Rick, there's no need to feel down,
We say, hey Rick, keep yourself off the ground
You can try Rick, birthday's keep comin' 'round
There's no need to be un-happy.

Thanks to you Rick, there's a place we can go.
We can hang out, and watch our worms grow.
Watch you starve them, but what we want to know
Is what are you try-ing to show

He runs the lab and he's R.I.C.K.
How are your worms today, R.I.C.K.
He has everything to keep us employed
if we just had a few more toys

happy birthday to R.I.C.K.
we can't believe that you are 50 today
just a couple grey hairs that Soojin put there
we'll give you more soon, beware.

Rick says, young man, are you listening to me
he says, young man, what do you want to be
he says, young man, here's a quarter call home
you won't be a sci-en-tist, go!

no postdoc, does it all by themself,
we say postdoc, put your pride on the shelf
and just go there, to the R.I.C.K.
and he'll make you cof-fee today.

he runs the lab and he's R.I.C.K
he thinks he runs us too, R.I.C.K
he begs for our lunch so the fish can all munch
I'll probably starve to-day

happy birthday to R.I.C.K.
we can't believe that you are 50 today
reviewer's are right, so we’ll be up all night
just thinking what to say.

Rick says, you can sleep when you're dead

he says, rotons don't you dare go to bed,
science it is not for the weak,
must be in-te-llec-tually de-ep.

Hey Rick, who are you hanging with
Lidquist, Watson, Me-ssel-son, Betty Craig,
all the big brains, where on earth did you train
was it rea-lly tru-ly HARVARD?

He runs the lab and he's R.I.C.K.
Japan and back and it's still the same day
DR. Mo-ri-moto you really must go
no jet-lag anyway

Happy birthday to R.I.C.K.
we can't believe that you are 50 today

Hey Rick, (Old man) there's no need to feel down
half a century's not as old as it sounds,

(SHOUT) Happy birthday to R.I.C.K!



The Morimoto Laboratory Home Page: http://www.biochem.northwestern.edu/ibis/morimoto/morimoto_home.html


(2012-12-19)

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